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世界が君の敵になっても

 彼女は瞬く間にして世界中、全人類の敵となった。


 彼女の周囲見渡す限りが更地に変わったからだ。

 震天動地。天変地異。森羅万象の全てを超え。質量、物理法則を完全に無視して。彼女は1つの町を一瞬で消し去った。


 爽やかな朝日の中で楽しく話していた校舎も。

 つい10数分前まで引き留めていた俺の部屋の魔の布団も。

 机に入れておいた昨日借りてきたばっかりの図書館の本も。

 俺の目の前の物らが一瞬で全て消えた。俺を除いて。

 

 図書館の人になんて謝ればいいんだよ。目を離したら町ごと消滅しましたってか? 誰が信じるんだよ。いや、実際に町は消えてるし案外信じてもらえるか?

 学校の隣にあった図書館を見ようとしても今は更地が広がる。


 どうだろう。

 遠くに山がうっすら、霞んで見えるから向こうはまだ消えてないんだな。

 彼女から逃げられる気はしないけど。


 きっかけは極めて平凡だ。平凡過ぎて巻き添え食らった人達もきっとあの世で笑っているだろう。

 なにせ俺が彼女に「スカート捲れてパンツ見えてるよ」と言っただけなのだから。


 俺と彼女は幼なじみ。

 赤ちゃんの頃から一緒に遊んで、風呂にだって一緒に入っている。

 何を今さらと思うけど、うら若き乙女の感情は俺には分からない。

 どこかで見た気がするけど、乙女の心は春の風と言うらしい。

 そんなに気まぐれなら俺には一生掛かっても理解出来そうに無いな。


 キーンと耳障りな電子音。

 遥か遠くで軍隊らしきものが大型スピーカーを使って対話する気らしい。

 なにもそんなにビビらなくても。

 彼女のすぐ傍には俺が居るのだし。


 放送が始まれば、地上って凹凸が少ないとここまで音が伝わるのかという感想を抱いた。


 ところでお前感情薄くないかだって?

 今その話をするの? タイミング考えてる? もしかして友達居ないの? いや、いいんだけど。どうせ軍隊の声なに言ってるのか聞き取れないし。

 いやまあなに、無感情なんじゃなくて、色々起きすぎて気が動転して1周回って冷静になってるだけ。

 こういうことは1回、俺と同じ経験をすれば分かるんじゃないかな? 俺はもういいかな。


 気付けば軍隊のおっさんの野太い声が消えている。

 さっきまでノイズみたいに聞こえて不快だったからなあ。で、なんて言ってたの?


「私の求めるモノはお前らには一生手に入れられない」


 幼なじみのいつもと同じ声音。いつもと違う口調。


 慣れ親しんだ初めての体験ってここまで不思議なんだな。生きていれば色んな事もあるもんだ。


 遠くで轟音が聞こえたけど、多分あっちも消えたんだと直感的に理解する。

 彼女、腕を振り下ろしたし。


 ラピュタの雷云々でしょ? 知ってるよ。金ローでよく見てる。それにしても、なんで金ローってラピュタとサマウォしかやらないの? あとトトロとカリオストロ。

 もういいよ。他にもあるじゃん。もしかしてルパンの映画ってカリオストロと人造人間以外やってないの?


 何の話だっけ? ああ、地球消滅か。

 なにもない大地に立っているのに忘れるとか常人のメンタルじゃないな。流石俺。


 あれ、もしかしてこの流れって俺が彼女倒してハッピーエンド? 彼女に取り付いた悪魔倒すみたいな感じでヒロイン最後切り離せるけど手遅れみたいな。

 うんうん。世界の救世主っぽくてカッコいいね。やらないけど。

 

 怖いじゃん! 腕一振り1つ町ひとっ飛びだよ? どっかの宣伝みたいなノリで消されるよ。


 俺は至って平凡なの。目が覚めたら異能は目覚めてないかなとか、実は伝説の騎士の血統でとか、急に超能力は授けるから世界を救えみたいな事考えてるいたいけな男子だよ。最後の今の状況じゃん。

 しかし待てども暮らせど超能力は来ない。なんで彼女にはあげて俺にはくれないの!? 可愛いから? 分かる!


 ここで突然の自慢なんだが俺の幼なじみは可愛い。世界一可愛い。なにしても可愛いし。吐き出す息まで可愛く見えてくる。いや、ここまでくると病気か。

 とにかくまあ、彼女は超絶可愛い。俺がお墨付きを付けてやるよ。ついでに傷物にしてやるよ、ぐへへという妄想でこれまで幾度となく俺から子種を搾取してきたレベルなのだ。

 今冷静に考えてみると俺ってば最低だなっ!


 閑話休題。


 こういうくだらないことを考えていないと俺は退屈で死にそうだ。

 世界中からミサイルは飛んでくるし爆弾は落ちてくるし。もしかして俺のこと見えてないのかな。今度飛行機来たら手を振ってみよっと。


 どんなにミサイルが爆発しても。爆弾が荒れ地を吹き飛ばしても、俺と彼女は無事に澄み渡る青空を眺めていた。



 彼女が世界の敵になってから何分経ったのだろう。何時間か? 時計も消えちゃったし、なんとなく数分だと思う。


 俺は日本大陸の上で終始宙に浮いている彼女を眺めていた。


 彼女の身長は150センチ弱。もしくは届いてない

 170センチ強の俺とはえらい格差社会だ。


 だから多分彼女は俺より高い場所から俺を見下ろしているのだろう。

 スカートの裾を巻いて短くしている彼女は高低差でパンツが丸見えだ。

 

 彼女が穿いているパンツは真っ赤な派手なパンツ。どう考えても学校に穿いてくるものではないのだけど、ファッションは個人の自由だしね! エロいし。


 え? なに? また? 日本は大陸じゃないって?

 世界で1番大きい島が日本だったら日本は大陸だろ?

 他の大陸は全部海の底。まさに海底都市。良かったな。砂漠の水不足も一気に解消だ。塩水だからゴミだけど。


 あのユーラシア大陸が沈んだのに海面上昇しないのは不思議だけど、今の俺に物理法則は存在していない。世の中なるようになるもんさ。北アメリカ大陸の「英語わからん」には苦笑いしか出来ないけど。


 という訳で現在の地球は正真正銘、水の惑星。なんと表面の99.9%が海水に飲み込まれている。

 なんだ、もう今日から水星名乗っても良いんじゃないか?


 彼女は不意に俺の目を覗き込む。

 殺気に満ちたその目に俺は思わずちびりそうになる。

 いや、ちびってないよ? 男のプライドを懸けて自信をもって否定する。怖かったのは事実だけどね。


 そして、俺の足元から更地が消えた。


 ああ、地表が下がっていたのね。だから海面が上昇しない訳だ。


 現在、俺は大海原の上に立っている。

 全く怖いな。


 俺は小学校1年生の時溺れて以来、一度もプールに入ったことがない。

 普通に怖すぎる。なんでみんな楽しそうなのか分からない。水の中は息は出来ないのになんであんなにやりたがるの? 女子の水着目当てじゃない?

 そういえば小学校のときのスク水ハイレグの一体型だった気がしたんだけど、なんか最近は上下分かれているのばっかだな。

 一体型ってどう着ていたんだろ?


 例えば今ここで海に落とされれば俺は泳げず死ぬ。泳げたとしても陸がないから死ぬ。

 落ちたらどうあがいても死ぬしかない。


 ここはアニメ第一法則、下を見るまで重量は仕事をしないを使って絶対視線を落とさないようにしてっと。

 逆に海に落ちればこの股間がびしょ濡れのズボンを海水と一緒に誤魔化せられるからいいのでは?

 そんなしょうもない考えとっとと捨てて目の前の神様に助けを求めないと。下手下手に出てご機嫌たてないと。


「earth or you?」


 なんで英語出来ないのにそこは英語なんだよ。日本語で訊けよ。

 思わず毒づいた。相手が相手だ。絶対無理。

 

 地球か命かってどっち選んでもですルート確定ですやん。

 

「なあ、これって夢だよな?」

「そうだよって言ったらどうする?」


 すんなり今までのキャラ捨てて答える彼女にもう少しキャラ作れよと心の中で突っ込みつつ心に決めていた言葉を引き出す。


「お前のこと好きだ。俺の女になれ。って言って反応聞く前に起きるんだろ」

「……。……そ。じゃあ、夢だよ」


 それって肯定って意味じゃあ―――


 *


「―――はい、知ってましたー。分かってましたー。夢オチですよねー」

「な、なに急に起きたと思ったら変なこと言いだして。変なもの食べた? 道に落ちてるかりんとうは食べちゃダメだってあれだけ言ったじゃん」

「一度も言われた覚えはねぇし、そういうこと大きな声で言うんじゃねぇ! ほら見ろ! 皆俺のこと不審者みたいな目で見てるじゃねぇか!」

「よかったね。今日から人気者だよ?」

「とんだピエロだよ! ああっ、この際言うけどな、お前スカート捲れてパンツ丸見えだぞ!」


 俺がその言葉を口にした途端、目の前は荒れ地へと変貌した。


「ああ、なんだよ。まだ目、醒ましてなかったのか」

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