剣と才能と父様の過去
こんばんわ、FGOのイベントに全力のオムレツです。
今回はちょっと長めです。では、どぞ。
ユーテシアは、昼食後ブレイブに貰った木剣を持ち中庭に急いだ。
朝は魔法の特訓、昼からは剣術、夜はメイブによるお勉強。これがユーテシアが決めた1日のスケジュールである。少しハード過ぎじゃないか?とクレアとブレイブは思ったがユーテシアは頑なに変えようとせず、結果として休むのも修行の内ということで3日に1度休みを入れるということで決着が着いた。
「お待たせしました!父様」
ユーテシアは息を切らしながら中庭に到着した。
「ん?急いできたのか?そんなに慌てなくてもよかったんだぞ?」
「いえ、早く修行したくて急いできちゃいました!」
ユーテシアはわくわく顔でそう答えた。
「ははっ!早く修行したいなんて、剣の修行だって初めは地味でつらいもんだぞ」
ブレイブは少しおかしそうに笑った。
「もちろんです。それでもです!」
ユーテシアは満面の笑みで答えた。
それを聞き、ブレイブは安心したように息をついた。
「そうか、実はユティの資質をクレアから聞いたときに、もしかしたらユティは剣術をやめるって言い出すんじゃないかと思ったんだ。」
「そうなんですか?」
「あぁ。だって魔力Sなんてどこの国でも喉から手が出るほどの大魔道士の卵だ。俺も魔法は使えるが教えられるほど繊細な使い方なんてできない。俺から教えられることなんてないんじゃないかって思ったよ。だからユティが剣術をやりたいって言ってくれて嬉しかったよ。でもな、同時に不安にもなったんだ」
「ボクの守りがGだからですか?」
「そうだ。今は俺かクレアが守ってやれるけど、いつか俺たちが見ていないところで怪我するんじゃないかってな。魔法だけなら前衛に出ないから直接ダメージを食らう危険も少ないからな」
「もちろん、ほかの人よりも危険が伴うのはわかってます。でも、それでも、もう憧れちゃったんです」
「憧れた?剣術にか?」
「違います!父様にです!父様の剣舞を見たときから、父様の剣舞が頭から離れないんです!」
ユーテシアはキラキラした瞳でブレイブを見た。
それは、ユーテシアが約4歳の頃、ユーテシアがぼーっと中庭を眺めていた時に、たまたま中庭で剣舞をしていたブレイブを発見したのだ。ブレイブは動きを確かめるように丁寧に、淀みなく流れるように剣を振るう。それはまるで流麗なダンスのようだった。。それを見てユーテシアはブレイブに強烈な憧れを覚えたのだ。
前世で目的のなかったユーテシアにとっては、その胸を焦がすような気持ちは、もどかしいと同時に心地いいものだった。
「お、俺!?」
ブレイブは予想外な答えに素っ頓狂な声を上げた。
「はい!父様の剣舞とってもカッコ良かったです!ボクもあんな風に剣を振るえるようになりたいんです。」
純粋に自分に憧れを持ってくれるというのはブレイブにとってはかつてないことだった。
ブレイブが騎士団長に任命されたのは、彼がまだ20歳だったことだった。かつてないほどの最速の任命だったこともあり、王国では少しの間、話題はそのことで持ちきりだった。だが、そんなブレイブにいつも向けられたのは、憧れの眼差しではなく羨望だけだった。いくらブレイブが努力をしていようが「天才だから」の一言で片づけられ、どんな事を成しても当たり前のように扱われ、心より祝福してくれる者はクレア以外いなかった。ブレイブ自身も誰かに褒めてもらう為に騎士になったにではないので、気にしていないつもりだった。
だから気づかなかった。
「と、父様!?泣いているのですか?何かボク変なこと言ったでしょうか?」
「えっ?」
ユーテシアに言われるまで自分が泣いてることに。
ブレイブは自身が涙を流していることに驚き、目元をぬぐいながら言った。
「ち、違うんだ。ただユーテシアが俺みたいなりたいって言ってくれて嬉しかったんだ。
騎士だった時も、皆認めてはくれるけど、そんな事言ってくれる奴いなかったから」
それを聞き、ユーテシアはブレイブの過去に何があったかを察した。
(若くで騎士団長になったと聞いていたので、もっと順風満帆な人生を送ってきたのかと思っていましたが、やはり、羨望、嫉妬はどこの世界であろうとあるもんですね)
ユーテシアはそんなブレイブの心情を知り、胸が締め付けられるような気持ちになった。
「父様。今までの人が見る目がなかっただけですよ!だから、、」
「あぁ。ありがとなユティ。ははっ!5歳の子に慰めてもらうなんて、もうどっちが子供かわかんねーな」
ブレイブはユーテシアの慰めを遮るようにユーテシアの頭をわしゃわしゃと撫でながら言った。
そう言ったブレイブ顔は、目元は少し赤いがとても晴れやかなものだった。
「んっ、父様もう大丈夫なんですか?」
ユーテシアは擽ったそうに眼を細めながらそう尋ねた。
「おう!ユティのおかげで元気もやる気も満タンだ!」
「それはよかったです」
ユーテシアはブレイブの表情を見て安堵した。
「さて、じゃあそろそろ始めるか?」
「はい!お願いします」
そうして、やっと2人の剣術の修行が幕を開けた。
「じゃあユティまずは、剣を持った状態で手を伸ばしてみろ」
「こうですか?」
ユーテシアは言われた通りに剣を持った状態で手を伸ばした。
「そう、その距離がユティの剣の届く距離、つまりリーチだな。ユティのリーチと俺のリーチと俺のリーチどっちが長いと思う?」
「それはもちろん父様のほうです」
「そうだな。つまりユティのリーチ内に入っているということは、俺と同じようなリーチを持った敵がいた場合、真正面から切り合えばユティが負けることが多くなって来るということだ。じゃあどうしたらいいと思う?」
「うーん、、先手必勝で切りかかるか、避けて切るとかですか?」
ブレイブはユーテシアの答えに満足そうにうなずいた。
「そうだ。ユーテシアが剣士として戦う道、それは、避ける、受け流す、スピードでの翻弄、これに尽きる。これらはタイミングの見極めがかなりシビアになってくる。少し受け方を間違えただけで吹っ飛ばされたりするしな。ユティがの場合はそれだけでも致命傷になる可能性が高い。
だがな、こいつを極めればユティは間違いなく最強の剣士になってるだろうよ。なんせこれは、俺が騎士団長にまで上り詰めた唯一無二の戦い方なんだからな。」
そう言ってブレイブは少年のようにニヤリと笑った。
見方を変えれば、真正面から打ち合わない卑怯な立ち回りとも取れるこの剣技。だがユーテシアにとっては自分が憧れた人と同じ剣の道を行けるのだ、心が躍らないはずがなかった。
「一度判断を誤ればアウトですか。そういうリスキーなのも悪くないですね!それに父様と同じ道を行けるなんて、俄然、やる気が出てきました!」
そう言ってユーテシアもブレイブのようにニヤリと笑った。
「はは!張り切るのはいいけど無理はするなよ」
「はい!」
一通り説明が終了しブレイブは、早速今日の修行の内容を告げた。
「じゃあ、今日は、素振りを軽くしてからランニングと行くか」
「わかりました!」
こうして修行は本格的に開始したのだが、約2時間後、、、、
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。も、もう動けないです~」
ユーテシアは芝生に寝っころがりながら息を整えていた。
初めの約1時間は剣の型を中心に修行していたので、ユーテシアもついていけたのだが、後半1時間は、ずーと止まることなくランニングだったのだ。
(ランニングはきついですが走った後、芝生に寝っころがるのは気持ちいいですね)
ユーテシアは酸素のまわっていない頭でぼーっとそんなことを思っていた。
「ユティお疲れさま。ほれ水だ。」
そう言ってブレイブは皮袋に入った水を差しだした。
「あ、ありがとうございます」
「どうだ、きつかったか?1時間も持つと思ってなかったから、正直びっくりしたよ」
「確かに大変でしたけど、父様のような剣士を目指しているのですからこれくらい当然です!」
ユーテシアは少し胸を張りながら言った。
「そうか、頼もしいこと言ってくれるじゃないか」
ブレイブはそう言ってユーテシアの髪を梳くように撫でた。
「んー父様のなでなで気持ちいです~」
疲れているせいか、いつもより甘えるようにブレイブに体を預けた。そうして休憩しているうちにユーテシアはブレイブに体を預けたまま寝てしまった。
こうしてユーテシアの修行1日目が終了した。
今回も読んでいただきありがとうございます。