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パクったアイデア

 

 無事に俺らは手続きを済ませて人事院を出た。


 人事院を出るときに廊下でサクラ閣下の副官であるマーガレットにばったり出会った、いや違うな、これは俺らを待ち伏せしていたんだ。

 すわ、奇襲だ、アプリコット直ぐに対処せよと思い直ぐに踵を返した……が、直ぐにアプリコットにつかまった。

 俺は部下に裏切られたんだ。


「中尉、今バカなことを考えていましたね。

 くだらないことなど考えずに、マーガレット副官とお話ししますよ」


「あ、あなた、今私から逃げようとしていませんでしたか……まあいいか、今更ですね。

 それより閣下からの伝言があります」


「伝言?」


「はい、明後日の午前10時に宮中で叙勲式が執り行われます。

 第一級礼服の着用をお願いしますね」


「あ、それって、前回着たやつでしょ」


「ああ、そうですね。

 それです。

 迎えに上がりますけど、遅れないようにお願いしますよ」


「迎えにって言っても、まだホテルを決めていないけど、できるの。

 それともこちらから連絡しないといけないとか」


「は?

 貴方は今日の宿泊先を聞いていないのですか。

 皇太子府にお部屋が用意されております」


「へ?

 前回はホテルだったような」


「ハイ、前回は前例が無かったものですから」


「前例?」


「そうよ、皇太子府に庶民を泊めた前例が無かったのよ。

 殿下はそれでも良かったようだけど、その後の記者会見などもあったので、ホテルになったようね。

 今回は、あなたが貴族になったので、問題ないんですって。

 閣下が言っておられたわ。

 それに、あっちでアンリさんも待っていますよ。

 お話があるのだそうよ。

 私にあなたを連れ帰るように頼まれましたから。

 だから私と一緒に来てね、中尉」


 どうもこの先、俺には全く選択権が無いようだ。

 尤もここに来てからというもの、いやここに来ることだって選択できなかったのだ。

 なるようにしか成らない、腹をくくるか。


 俺らはそのまま皇太子府に連れ戻された。


 まだ夕食には早い時間に皇太子府に着いたので、俺はそのままアンリさんにつかまって会議室に放り込まれた。

 議題は主にと云うよりそれしかないのだが、現地に作られる国家とのかかわりについてだ。

 最大の懸案事項が、そのできたばかりの国家の安全の確保だ。

 国家防衛と言い換えても良い。


 その基本方針は先に俺から殿下に伝えたキャスター少佐たちをそのまま使う案だが、これも細かなところでは色々と問題がある。

 実際、実用を考えると問題ばかりで、きちんと詰めておかなければならない。

 全てここで解決は流石に無理があるが、それでもかなりの部分を詰めて問題を潰しておかないと、本当に現場で何もできなくなるというのがここに集まった人たちの総意だ。


 流石に伊達に仕事超人と思われている人たちじゃない。

 そこまで優秀ならなんで俺のところに来る命令もきちんと考えた物がこないのか不思議でならないのだが、流石にそれをここでは言えない。

 俺と一緒にここに放り込まれたアプリコットが俺に余計なことを言うなよって目で訴えて来る。


「やはり最大の問題は、あの国家の戦力ね」

 サクラ閣下がそう切り出す。

 それにこたえるようにレイラ大佐が物申す。

「そういうがブル、あそこの戦力を底上げするには時間が足りないぞ。

 ここはやはり殿下の申す通りにキャスター少佐たちの活用を考えるべきだと思うぞ」


「それができれば簡単なのだが、そうもいかないのよ。

 私たちは直接キャスター少佐たちを見て知っているから武器を渡して守ってもらおうといえるのだが、ここ帝都にいる連中のほとんどが、『つい最近まで敵だった奴に武器を渡して自由にさせるだと、しかも、あの敵の英雄と呼ばれたキャスターだぞ、ばかげている』と言って憚らないのだと」


「え、その件はまだ発表前どころか本人たちの了解すらとれていませんよ」


「殿下たちが早速水面下での交渉を始めているのよ。

 その時の感触がこれなの。

 この件で了解が取れないと、本当に何もできないわよ」


 ほう、どんどん上は行動に移している訳か。

 しかし、自分たちは何も考えないような連中は文句だけはいっちょまえだな。

 じゃあ文句を言う奴は、どうすればいいと考えているのか言ってみろよ。

 俺は、自分に関係ないが、今の話を聞いて面白くなくなった。


 どうも、白熱した議論に俺だけ参加していないのが、レイラ大佐たちには面白くないようだ。


「お前はどう考えるのだ」


「そうそう、だいたい、この話は蒼草中尉が発端だぞ。

 少しは真面目に考えないか」


「中尉、そうですよ。

 今している話は直接私たちに関わってきますからね」


「え?

 アンリ二等外交官殿。

 私たちって、私も入るのですか」


「「「え??」」」

「何を当たり前のことを」


「え?

 だって、閣下に命じられた現地勢力との接触は完了しましたよね。

 ならば私への命令は完了していると思うのですが」


「ああ、正式に報告を貰ってはいないが、完了だな」


「ならば、そろそろ少しお休みを頂いても……」


「「「な……」」」

「貴様、貴様は何を考えているんだ」

「落ち着け、マーガレット」

「しかし閣下。

 こ奴のふざけた言い分は……」


「確かに、そうだが、こ奴の言い分にも一理あるのだ。

 私の持つ部隊で実戦らしき仕事をさせて来たのはあいつらだけだ。

 普通なら、ここらあたりで休みを入れるものだが、何故かうちらには全くの余裕が無い。

 ここまでいえば判るよな」


「休みを与える余裕が無いと」


「そういう事だ。

 だいたい私たちが忙しくしている原因の大半はお前が作ってきたのだぞ。

 そこは理解しているよな」


「ええ、司令部を始め閣下たち上層部が忙しいのは存じております。

 しかし……」


「ああ、忙しいのは上層部や司令部周りだけのはずだと言いたいのだろう。

 それは軍上層部にでも言ってくれ。

 新人ばかりよこすから、どこも他をかまう余裕が無い。

 それはお前のところも一緒だろう」


「ええ、新人の扱いには神経を使いますね。

 ですので、私の部隊はしばらくは新人の教育に専念したいと……」


「おまえ、ダメ元で言っているだろう。

 無理だ、諦めろ。

 それよりも現状の打開だ。

 意見くらい持っているだろう。

 帝国の英雄で、不世出の知将のお前なら」


「な、何なんですか、それは。

 聞いた事が無いです」


「そうだろうな。

 我々もここに来て初めて聞いたから。

 まあ、例の勲章自体が帝国の歴史に残るものだしな。

 それより、なんでもいいから意見を言え。

 これは命令だぞ」


 まったく乱暴な命令もあったものだ。

 しかし、さっきから聞いていたけど、軍は軍人はおろか、兵器すら出せそうにないときている。


 補給が無ければ戦争なんかできないから、直ぐにではないが補給だけは約束させないといけない。その上で次に軍人の手配をどうするかだ。

 しかし、即戦力となる軍人に宛があれば、閣下のところに新人ばかり送られてこない。

 ここで無理やり頼んでも、それの二の舞だ。


 問題点は分けて考える。

 要は、キャスター少佐たちは使っちゃダメという訳ではないのだろう。

 武器を持たせての自由を与えることがダメという訳のようだ。

 そこは確認しないといけないな。


「閣下、先ほどのキャスター少佐たちは全く使えないのですか。

 例えば先行して働いてもらっているアンリ少尉たちのように」


「ああ、でも人数が問題だな。

 傭兵として私の配下に置くことは無理すればできないことは無さそうだが、それではあの国の兵力とはならないだろう。

 それでは殿下の構想から外れる。

 殿下はあそこを占領したいのではない。友好国として独立してもらいたいのだ」


「それなら、あの国が独立さえしていればいいのですね」


「どういうことだ」


「はい、これから話すことは前例がないかとは思いますが、良いですか」


「意見だけなら何でもいいぞ」


「これから話すことは、アンリ外交官も相当大変になる案ですが」


「良いから教えてください中尉」


「ハイ、先ほどから閣下の話を聞いておりますと、キャスター少佐たちへの指揮権さえあればどうにかなると」


「ああ、指揮権さえ確保できれば帝都を説得する自信はあるぞ。

 しかし、さっきから言っているがそれは殿下は望まないぞ」


「大丈夫です。

 いいですか、あの国の軍人としてキャスター少佐たちを使います。

 しかし、それではこちらに指揮権がありませんので、あの国と同盟を結ぶときに合同しての軍を組織します」


「合同しての軍??」


「ハイ、そうですね、防衛共同軍とでもしておきましょうか。

 この軍には帝国からも参加して共同して防衛に当たります。

 当然、一つの軍ですから司令部は作られます。

 わが軍もあの国の軍もその司令部に指揮権を預けますが、その司令部を帝国側で受け持てば帝国が指揮権を持つことができます。

 そうですね、キャスター少佐たちだけだと大隊ですので、現地のローカル兵でも同じように今いる兵士を中心に最低でも大隊を作ってもらいます。

 それを合わせれば連隊規模になりますので、うちからも連隊を足して旅団規模の防衛共同軍ならすぐできます。

 それから徐々にローカル兵士を増やしていって軍事力を整備していけばどうでしょうか」


「そ、そんなことが……」


「新兵の教育など、それこそキャスター少佐たちに任せればこちらに負担もないですよ。

 何ならうちの新兵も一緒に……」


「んな事できるか」


「しかし、ブルよ。

 今の話、一考の余地があるかも」


「ああ、軍の所属はそれぞれ別だが、指揮権をこちらで押さえるのは名案かもしれないな。

 直ぐにフェルマンさんと連絡を取ろう。

 殿下の意向を知りたい」


 そう、俺の考えは、はっきり言ってパクリだ。

 だいたい俺に急に話を持ってきても出る訳ないわ。

 このアイデアは地球でお隣の半島に有った国連軍から貰ったものだ。

 今はどうか分からないが、あそこの防衛の指揮権はアメリカが持っていて、あの国を配下に置いていたから、今回の場合にも使えそうだと言っただけだ。


 しかし、俺はこの案の問題点も知っている。

 何より前例がない事と、外交交渉できちんと条約を結ばないといけない。

 結んだ後も常に外交で意思の疎通を図ることを欠かさない。


 これはこの案件を預かるアンリさんの負担が相当増えることを意味する。

 しかし、俺は知らない。

 外交官じゃないし、何より中尉レベルの軍人に何ができる。

 頑張ってね、アンリさん。


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― 新着の感想 ―
[良い点] すげえ他人事だろうけど、完璧にキャスター少佐とローカルにも顔が効くことを考えると中尉が窓口なんだけどなw [一言] やっぱり責任とってキャスター少佐嫁にしろよwそれが一番いい案で大隊規模の…
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