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中隊基地の建設

 

 パワーショベルの投入で建設予定地をジャングル内に変えたこともあり、最初の仕事としてジャングルの開拓及び整地作業が発生した。


 当初の予定では自然にできた広場を使うつもりだったので、これらの作業は考えていなかったが、防衛の観点などから基地設営場所を変えたのだ。

 それを可能としたのが目の前にあるパワーショベルの存在だ。


 確かにこの建機の投入で作業効率は見違えるほど変わってくるが、これを使う前の作業が発生している。


 とにかくジャングル内で出来るだけ起伏の少ない場所を探し、とりあえず生えている木を切る作業だけはこのパワーショベルではできない。


 こういった作業はやはり人海戦術が一番だと、先に基地に帰った連中に俺の隊全員を開拓作業のできる準備だけさせここに呼んだ。


 俺の現在抱えている兵士は数だけ見れば小さな大隊規模にまでなっている。

 預かっている兵士も含めれば立派な大隊と言える規模だ。


 それら全員を集めとにかくジャングル内の指定の場所に生えている木を切らせた。


 この作業は俺の隊全員は既にプロの林業従事者並みの能力を獲得している。

 なにせ居留地と呼ばれているあの広い場所の開拓を成功させている連中だ。


 今回はとりあえず100m四方の広さの開拓だ。

 先に目印をつけ場所の確定だけは済ませてあるので、目印に囲まれた場所の木を無条件で切らせていく。


 俺がひよこと呼んでいる連中も到着するとすぐに班長などの指示で作業に散らばっていく。

 見事なものだ。


 慣れていない預かり組はジーナ率いる下士官たちと一緒に切られた木材の枝などを払い、指定の場所に集めていく作業に当たって貰っている。


 これなら素人でもできるので、本当にジャングル開墾作業がどんどん進んでいく。


 さすがに100m四方とはいえこの広さの切り出しは1日だけでは終わらず、午後3時前に作業を中断させ例の自然にできた広場に野営の準備をさせた。


 作業場所から1kmと離れてはいるが、この距離は絶妙といえよう。

 ここから作業現場の様子は全く分からない。

 たとえローカルや敵がこの場所に来ようとも、基地の存在を知られなければ見つかることはまずないだろう。


 今日一日で外周に当たる部分の木の切り出しは終わった。

 明日からは期待のパワーショベルの登場だ。

 外周部分に深さ1m幅2mくらいの堀を作り、その堀のすぐそばに掘り出した土を使い高さ1mくらいの土壁を作っている。

 だいたいの作業をこのパワーショベルにやってもらう。


 最後は人の手が必要だが、そこは十分に人手はある。

 とにかく基地設営の場所の確保を最優先で作っていく。



 木の切り出しから堀や土壁の建設まで全員で当たって1週間ばかりで出来た。


 未だ内側に当たる場所にはそこらじゅう切り株があり、すぐに基地の建設には当たれないが、ここまでくれば当初の予定通り別れて作業に当たることにした。

 なにせ何もない場所に大隊規模の軍を駐屯させるのはとにかく大変だ。

 何が大変かというと、水だ。

 食料の方は行軍などの時に使われる配給食でどうにかなるが、水だけはどうしようもない。


 海軍さんから分けて貰ったタンクを仮置きして対応に当たったが、それでも大隊を賄うまでは至らない。

 それこそ毎日のように水を連隊基地から運んで来ていたが、基地設営の目途がついたので、常時体制に戻すようにここには最低限しか残さないことにした。


 残った人員で基地設営作業を進めながら付近の警戒探索をしていくことになる。


 俺は新しいおもちゃを貰った子供のように毎日パワーショベルを使って、切り株の処理をしていた。

 だいぶ操作に慣れたころで、海軍から来ている軍曹に操作のレクチャーをしながら、俺は遊んでいるわけではないとアプリコットやメーリカさん達に事あるたびにアピールしていた。


 でないと食事の時などで、みんなからの冷たい視線と皮肉によるバッシングがすごい。


「本当に毎日隊長は嬉しそうにあれに乗っているね」

「そうそう、まるでおもちゃを与えられた子供のようにね」

 などなど、皮肉が痛い。

 しかし、評価する人もいなくはない。


「しかし、なに、あのパワーショベルって。

 切り株の処理や穴掘りの時の尋常ならざる働きは凄いね」

「確かに、あれは凄いね。

 あれ一台で1個中隊以上の働きはしているからね」

「でも操作しているのは二人だけだから、敵の技術は侮れないね」

「例の鉄砲水が無ければ師団司令部なんか敵の新たに作られた基地によって簡単に占領されていたよね。

 あの効率で基地を作られれば、私たちが発見する前に簡単に基地をすぐそばに作られていたと思うしね」

 確かに俺らが最初にジャングルに来た時のあの鉄砲水で敵の目論見は潰えたのだ。

 あれが無ければその後どうなっていたのか分からないが、俺には先の会話で新たな疑問が浮かんだ。


 確かに河原にはいろいろなものが流されてきたのだが、このパワーショベルだけは無かった。

 その後、上流にも探査に向かったようだが、そういった類の報告も聞いていない。

 しかし基地設営にこれを使わない手はない。

 となるともしかしたら、このパワーショベルはまだ共和国でも一般化していない。

 ひょっとしたら今回ジャングルなどで、テストケースとして使う予定だったとか。 

 もしそうなら俺らは敵より早くこのパワーショベルを使っていることになる。


 皮肉なものだと感じなくはないが、今の共和国に未来があるとは思えない。

 俺らが敵の物であろうが味方の開発した新兵器であろうが使いこなして、少なくともこの辺りから争いだけは無くしていきたい。

 俺らが見た現地人村の惨状だけは二度と起こしてはならない。


 一日でも早く基地を作り、現地勢力との接触を急がねば。

 いつになく仕事に対する意義を見つけ使命感に燃えていたのだ。


 ジーナたちを返してから2週間ばかりでとりあえず基地として使えそうなまでの整備は終わった。


 ここで俺は一旦連隊基地に戻り、予てからの約束通りサカイ中佐に基地駐屯の小隊を派遣してもらうことにした。


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