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ある噂の全容

 「中尉、何が起こったのですか」

 先行するバイクに二人乗りでやってきたアプリコットが開口一番に俺に強い口調で問合わせてきた。

 彼女からすれば現状の把握を急いだそうだが、俺に言わせればかなり強い口調で怒られたような感じだ。

 ちょうど母親が発作的に子供を叱る時のあれだ「何やっているのよ~~」ってやつのように俺には聞こえた。

 なにせ俺等は捕虜もとい犯罪者の虐待をした後だったから、かなり彼女に対して後ろめたい気持ちがあった。


 するとちょうどそこにやってきたメーリカさんがアプリコットに今までここで起こったことを掻い摘んで話してくれた。

 かなりわかりやすい説明だった。


 アプリコットも納得したのか、このあとの行動に考えを巡らせ俺に聞いてきた。

 俺としたら、何をおいても基地への帰還を優先させたい。

 とにかく身の安全が第一だ。


「現状を無線で報告してすぐに帰還する」

「ここで無線報告しますか。

 敵に勘付かれませんかね」

「1日だけ移動してから無線で報告しようか。

 とにかく『報連相』は組織人の基本だ。

 これは何も会社だけの常識じゃなく軍人としても必須事項だと思うが、どうなんだ」

「なんですか、その『報連相』とは。

 私は初めて聞きました。

 士官学校でも聞いたことがありません」

 すると俺たちの話を聞いていたメーリカさんまで「私も今までの軍人生活で聞いたことがない」と言ってきた。


 俺がふたりの話に呆気にとらわれていると、『報連相』と何ですかとの最速を頂いたので、新入社員に教えるように『報連相』について説明した。


「報連相の『報』とは報告の『報』のことであり、何かことが起こったら関係者に速やかに報告することだ。

 同様に報連相の『連』とは連絡の『連』のことでこれも同様に必要事項の連絡のことを意味する。

 最後に報連相の『相』とは相談の『相』のことで、自分だけで解決できそうにないことなど、上司を含め関係者に相談することを意味しており、この報告・連絡・相談の3要素は組織人として働くことで重要な事柄を表している。

 これらの頭の文字を集めて『報連相』と言っていることなのだが聞いたことはないかな」


 俺の説明を聞いても二人はきょとんとした顔をしながら首を振っていた。


「確かに隊長の言う報告・連絡・相談の3つは大切だし、私もよく分隊の連中に口を酸っぱくして言い聞かせていたよ。

 なにせ自分らの命が掛かっているからね。

 私が知らなかったじゃ済まされないことが戦場ではよく起こるので、とにかくコミュニケーションはよく取っていたかな。

 でも『報連相』って言う言い方はなかったな」


「隊長、その『報連相』は分かりましたが話が脱線しております。

 元に戻して、今後はどうするか命令を出してください」


「とにかく全員がここに揃ったら、直ぐにここを撤収して基地に帰投するよ」

 と俺がここまで話していたら、テントからアンリさんが応急的な処置を終えて出てきた。

「中尉殿、蒼草中尉殿。

 これをお返しします。

 ありがとうございました。

 …………

 私たちを助けてください」

 と俺が貸した上着を俺に返しながら話しかけてきた。


「あ、あなたは確か…」

「あ、はい。

 私は以前助けて頂いたアンリ・トンプソンと言います。

 技術少尉を拝命しております。

 確か…アプリコット准尉?

 それとも中尉と同様に少尉になっておりますでしょうか」


「はい、私もあれから昇進しまして今は少尉です。

 あなたでしたか。

 でも何故ここにあなたがいるのですか」


「話せば長くなりますが、どうか私たちをお助けください」


「どういうことですか。

 既に強姦魔からはお助けしたはずですが。

 それにここには男性は非常に少ないですし、帝国軍人は強姦などさせません。

 中尉を除くとここにいる部隊の士官は全員女性ですし、私たちが絶対に乱暴などさせませんから安心してください。

 しかし、あなた方の処遇は捕虜待遇として扱わせていただきますが」


「安心しなよ。

 ここにいる中尉は『ヘタレ』だから強姦などできっこないからね。

 インポじゃないとは思うけど」


 メーリカさんが余計なことを追加していた。

 俺は確かに『ヘタレ』かもしれないが断じて『インポ』じゃない。

 大切なことだからもう一度言うけど『インポ』じゃない。

 ちなみに同性にも興味はないけども……アプリコットがこちらを睨んでいるので俺は今のことを声に出しては言えなかった。


 微妙は空気が流れだしたがそんなことに構わずにアンリさんが俺らにお願いをしてきた。


「私たちはもう捕虜じゃダメなんです。

 もう国には帰れません。

 多分既に死んでいることになっているはずですから」


「どういうことなんですか」

 すかさずアプリコットがアンリさんに聞いてきた。


 アンリさんが俺に話したあの『噂』について、今度は詳しく話してくれた。


 敵である共和国の軍内部に特に女性兵士の間である噂が流れているのだ。

 軍の上層部が、特に大統領直轄の政治将校を中心に女性に乱暴をしているとの噂だ。

 最初は占領地の女性を拐ってきて乱暴後事故や事件に見せて殺していたというのだ。

 そのうちに捕虜の女性兵士にまで乱暴しては殺しているとのことだった。


 しばらくすると、自分たちの仲間である女性兵士にまで手を出しているというのだ。

 元々、共和国は帝国を憎んでおり、捕虜となった人はかなり偏見を持たれ、冷遇されている。

 乱暴に遭う女性兵士のほとんどがこの捕虜返還後の兵士や、上官特に政治将校に嫌われている女性兵士などが被害に遭っているというのだ。


 ここ最近ではここゴンドワナ大陸で流れている噂では、政治将校と女性兵士が本隊から分かれて行動をする時に限って事件などが起こり、男性である政治将校などの士官だけが生き残ってくるということが頻繁に起こっているとのことだった。

 決まって本隊から分かれて3日目に事件が起こり、政治将校などが6日目に本隊に帰還して報告されるとのことだった。


 この噂が本当であると証明されたものだから、自分たちは既に死亡扱いにされているというのだ。


 詳しく噂の中身を聞いたが本当に胸糞の悪くなる話だ。

 共和国にはゲスしかいないのか。


 特に戦地にやってくる政治将校の質の悪さは帝国でも知るところではあったが、敵ながら大丈夫かと思ってしまうくらいの有様だった。


 今回のケースもかなり上の人が関与する組織的なものだろう。

 参謀や政治将校への慰安が目的な非人道的な行いなのだろう。


「隊長…」

 今の話を聞いてアプリコットが怒りで顔を赤らめながら俺に聞いてきた。


「わかっている。

 今考えているから」

 俺は彼女たちが国に帰れない状況を理解した。


 しばらく考えていたのだが、俺はひとつのアイデアが浮かんできた。

 国に帰れないのならば帰らなければいいだけじゃないか。


「アンリさん。

 国に帰れないならば帝国に亡命しませんか」


「「「え~~~~」」」


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