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贅沢な応援

 狭い基地である。

 なにせ中隊一つが仮に?こさえた基地をベースに拡張しているだけであるし、連隊に引き継いでからもさほど時間も立っていない。


 俺がそこいらを歩いていると明日からの準備に走るアプリコットやジーナと出会うのも頷ける。

 今回は2週間という期間もあるが最悪のケースも想定しないといけないので、その準備にも時間を取っているようである。

 敵との遭遇を想定しているので遭遇戦くらいまでは想定しないといけないし、最悪では威力偵察までしなければならない場合も考えないといけない。


 しかし中隊一つ、いや今回は小隊レベルであるから小隊一つで出来る威力偵察なんてあるのか…過去に山猫さんたちが小隊一つで連隊に対して威力偵察をした経験はあるそうだがあれは無謀を通り越して自殺だと評価されているのだ。

 山猫さんたちだったから生きて帰れたものだし、それもかなりの幸運があったからだと思う。

 今回の偵察には威力偵察までは命じられていない。

 そもそも敵との戦闘すら命じられていないのだが、準備だけはしている。

 とにかく今の俺の中隊の主力メンバーは明日からの準備で大忙しだ。

 なにせ日頃は落ち着いているメーリカさんすら走り回っているくらいなのだから、俺もなにか手伝えないかと基地内を歩いているのだが、彼女たちからはとにかく『何もするな』と()()されているのだ。


 俺が何かすると邪魔なのだそうだ。

 少し時間も早いがふて寝でもしようかと、あてがわれている建家に向かう途中でサカイ連隊長に呼び止められた。


「中尉、ちょっといいか」

「は?

 サカイ連隊長、なんですか」

「先程のお願いで言い忘れたが、今回の探査に私のところから小隊を一つ付けるから同行させて欲しい。

 かなり危険な任務を任せきりなのが気が引けて」

「いや、危険はしませんよ。

 何かあったらさっさと逃げますから。

 それができる連中しか連れて行きませんし」

「言い方が悪かったな。

 気が引けるのは本当だが、正直なところ我々はまだこのジャングル内での活動に慣れていない。

 ジャングルの専門家である中尉に鍛えて欲しくてな。

 我々の中からとびきりの連中を用意したのでな。

 彼女たちを鍛えて欲しい」

「え?

 私だってこのジャングルに来てさほどの時間は経っていませんよ。

 それに今回の主力は海軍陸戦隊だし、専門家というには詐欺に近いかと思いますよ」

「何を言うか。

 そのわずかな時間で中尉は数々の()()を挙げてきたじゃないか。

 今では帝国の英雄とまで言われているそうだな」

「それやめてください。

 それこそ完全に詐欺になります」

「小隊の件は既にあの出来た副官には伝えてあるし、小隊の準備は我々の方でするから自分の部下のつもりで連れて行って欲しい」

「別に連れて行くのには異存はありませんが、大丈夫ですかね。

 帝国きっての精鋭である花園出身の方たちの部隊でしょ。

 それこそ軍人の気質も疑われている俺に付けて」

「大丈夫だ。

 あいつらも中尉には相当強い関心を持っているしな。

 海軍ほどじゃないが、ここ陸軍にも中尉にあこがれを持っているのもいるから。

 その英雄と仕事がしたいという者たちから選んだ部隊だ。

 ここの連隊を支える経験者ばかりで構成した特別な小隊になっている。

 ジャングルの中じゃ君たちには及ばないかもしれないが、一度戦闘でもなれば絶対に力になるものたちばかりだ。

 君のところの山猫にだって遜色のないものたちを集めたつもりだ」

「え?

 いいんですか、そんな人たちばかりを集めても」

「大丈夫だ。

 ここでは当分基地作りだ。

 そんな仕事にはもったいない連中なのさ」

「そこまでしていただけるのならお借りします」

「時間がないので顔合わせは明日の出発前になるがよろしくな」


 なんだかかなり気を使われているような気がする。

 確かに敵の勢力圏まで調査に行くからには戦闘の危険は常に付きまとう。

 そんな時に帝国きっての精鋭の兵士を一個小隊付けてもらえるのはかなり助かる。

 それにしても贅沢な布陣だ。

 海軍の精鋭陸戦隊と近衛の精鋭の花園の両方を率いてそれに気心のしれている山猫の連中までいるから、俺にすればかなり安心ができる布陣だ。

 一番の安心できるポイントが今まで付きまとわれた新人たちがいないという事実。

 これならあしでまといなのは俺一人になる。

 これならもしもの時にも逃げ切れるだろう。


 俺は安心して明日を迎えられる。


 明朝、広場にはトラック2台に2個小隊が控えて出発を待っていた。

 俺が集合場所に着くと全員が敬礼をして出迎えてくれる。

 なんだかとっても偉くなった気分だ。


「中尉、お言葉を」

「あ、そう。

 今回は今までと少し違って、俺らの方から敵に近づくという初めての経験だ。

 少しでも危険を感じたら逃げるからそのつもりで」

「「「「………」」」」


「ワハハは。

 中尉らしいな」

「あ、サカイ連隊長。

 おはようございます」

「連隊長に向かって敬礼」

 ジーナが直ぐ全員に号令をかけた。


「楽にしてくれ」

「敬礼直れ」

「今回の偵察は、私からの依頼でもある。

 とにかく敵の様子が全く掴めない中、少しでも情報を得るために危険な任務だが全うしてくれ。

 中尉からは何かあるかね」

「いや、ありません。

 では、いつまでもここにいてもしょうがないので出発します」

「全員、乗車」

「連隊長、行ってきます」

 と見送りに来てくれた連隊長に向かって挨拶を交わし、ジャングルの中に車を走らせた。

 しばらくは全員一緒に移動するが、いつものごとくバイクに先行させジャングル内を探査していく。


 いつもの愛車である敵から拿捕した指揮車内に今回は花園の薔薇連隊から応援で来ている小隊長のサーシャ少尉も同乗している。

 急な編成であるし連携などの相談もあるためだ。

 それにしても今回の応援部隊であるがかなり豪華な布陣だった。

 小隊長のサーシャ少尉もサクラ閣下に付いて数々の戦場を経験しており、メーリカさんと同様に士官学校を経ずして経験と実績だけでの少尉任官である意味帝国女性兵士のレジェンド的な存在だ。

 歳もメーリカさんとほとんど変わらない。

 薔薇連隊にあってあのサカイ連隊長の信頼も大きく、連隊の中心的な存在だが、それだけでなく、小隊員の全てが経験豊富な下士官というおよそ考えられない編成だ。

 なんでも各部隊からエース級を集め編成したとサーシャ少尉から今しがた聞いたばかりだ。

 横で一緒に聞いていたアプリコットやジーナは固まっていたのは止む追えないことだろう。

 最もメーリカさんは豪快に笑っていた。

 とにかくそれだけ今回の偵察に危険を覚悟しているとともに敵の情報を集めることに期待も大きいということだった。


 まあ俺としてはサリーのお姉さんの情報が少しでも入ればいいかなというくらいしか考えていなかったのだ。

 サーシャ少尉は叩き上げという経歴からかメーリカさんとも直ぐに打ち解けて車内の雰囲気は直ぐに良くなった。

 事務的な打ち合わせはこれもいつもと同様に俺の横で、俺を無視する形で勧められている。

 今のところ全く問題はない。

 すこぶる順調な滑り出しであった。


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