どこに行こう
「とりあえずの現状の確認だが、どこに行ったらいいと思う?」
「少尉、いい加減きちんと指示を出してください」とアプリコット准尉からの抗議を当然のごとくスルーして、地図を見ながら相談を始めた。
「現在地は第27場外発着場から南に100kmくらいの位置ですが、ここから場外発着場に向かいますと、途中にある地溝帯のため、大きく迂回する必要があります。それに、川幅のある川をいくつか越えないと向かえませんので、直接向かうには覚悟が必要です。
地上移動については素人ですが、最悪ジャングルの中を道のりで200~300kmくらいの移動を覚悟する必要があると考えます」 とさらっと機長が恐ろしいことを言ってきた。
「装備がない中での、このあたりの渡河は賛成できません。このあたりの川は上流にある氷河の関係で水温が低いため、このまま渡河すると、川幅にもよりますが、低体温で溺れるか、渡れても暫く体が思うように動かすことができません。
敵にでも遭遇すればひとたまりもありませんし、敵でなくとも、鳥獣等による不測の事態にも対応ができません」
とこれもまた、他人事のように恐ろしいことをさらっと准尉が資料を見ながら意見してきた。
「このまま救助を待つ選択肢はあり?」
「少尉殿
何をすっとぼけたことを言っているんだ。
救助なんか来るわけないだろ。
だいたい、このあたりは、前線といっても、ジャングルのため、軍事行動が取りにくく、ほとんど忘れられている地域だろ。
VIPならともかく、そんなところに大切な軍隊を出して、救助なんかするわけないだろ。
自分たちで、どうにかするしかないだろ」と軍曹が呆れながら言ってきた。
すると、隅の方から小声で、
「あの~、もしかしたら、私いい場所に心当たりがあります」
と、航法士の者が言ってきた。
ここで話し合ってきた全員が声の主に注目する中、航法士が続けて
「『忘れ去られた』で思い出したのですが、5年ほど前に連隊が解散したのですが、このあたりにその元連隊駐屯地があったはずなのですが」と、その場所を指差した。
すると、先ほどの軍曹が、
「確かに、その辺に解散した連隊の駐屯地があったのを思い出した」
准尉も
「ここなら、渡河の必要もあまりなさそうですし、近くの川に沿って向かうことができますので迷うこともなさそうですね」
「機長、ここに向かうとして、地溝帯やその他、問題になりそうなところがありますか?」と機長に聞いてみると
「先程も申しましたとおり、私は地上移動については素人ですが、今までの経験上、空から見てた感じでは、地形上の問題は感じられませんでした。
特段、大きな滝なども見えなかったように思います。
しかし、その場所も、ここからですと100kmくらいの距離はありますよ」
「よし、他に行けそうな場所もなさそうなので、ここに向かうとしようか。
ここならば、誰かいるだろう。
最悪、誰もいなくとも、道はあるはずだし、どうにかなりそうだな。
何か意見ある人いますか?」
「私、思い出したことがあります。
この元連隊駐屯地には、基地の維持管理のため、1個中隊が駐屯しているはずです」
と兵士のひとりが答えると、また別の兵士のひとりが
「私、知っている。
あのΩ中隊とか、掃き溜め中隊とか言われている中隊だろ」
「何それ?」と聞いてみると
「いわゆる、軍での左遷部署、窓際部署と言われている部隊です」と准尉が苦々しく答えてくれた。
「左遷でも、窓際でも、仕事はしてくれるだろ。
敵でも、捕虜として生かしてくれるのだから、味方なら、殺されはしないよ。
最低でも目的地の場外発着場には連絡くらいつけてくれるさ。
そこに向かうことで、決定するよ」と言い切ると、そこにいた全員が承諾の合図として頷いてきた。
軍曹が独り言のように
「100kmか、我々だけなら4日もあれば行けそうだが、ほかのメンバーもいるとなると7~10日は見ないと…キツそうだな」
軍曹の独り言を受けて准尉が、
「となると、問題は食料ですね。
水は川伝いに移動するので、どうにかなりますが、食料をどうするか。
携帯しているサバイバルキットを使っても最長で3日、地獄のサバイバルが決まりですね。
魚はいいけど、虫は食べたくないですね」
「川伝いに移動するのなら、明日1日くらいは様子を見て移動しないほうがいいです」と、そこに偵察に出ていた隊員たちが戻ってきて報告を始めた。
「すごい勢いで川の水量が増えています。鉄砲水でも発生しても不思議のないくらいに。
水温もまるで氷水のような冷たさで、川には入れませんでした」
報告を受け、暫く考えてから、みんなに向かって
「軍曹、偵察に出ていなかった隊員を中心に交代で付近の哨戒、他はあす朝まで待機、移動については、明日、川の状況で判断することで、ということでいいよな准尉」
「指揮命令の判断について、いちいち私に了解を取らないでください。少尉」と半ば呆れ、半ば怒りながら准尉が答えてきた。




