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エシックス・ナシゴレンの生態

作者: 潮路

 

 エシックス・ナシゴレンは、カーポナージャの原生林に生息する生物であり、ごく最近となって、その存在が確認された。

 成体時では体長は一メートル、体重は二十キロにもなる、筒状をした巨大な軟体動物である。全体が黄と緑の蛍光色が斑模様にようになっている。雌雄同体であり、単独個体での出産が可能となっている。

 人間をはじめとして敵対行動はとらない。緩慢な動きをし、知能はほぼないと推測される。検証の結果、痛覚もないようで、自分の体が欠損しても何ら行動を起こさない。

 目や触覚が存在しないので、口がある方が正面、ないほうが背面と呼ばれる。

 表皮はぶよぶよとしたナメコのような触感、接地面は半分液状となっており、移動した痕跡が確認できる。

 外見で特徴的なのは、背中にある三角錐の出っぱりだろう。我々はその部位をカタツムリに見立てて(シェル)と呼ぶ。しかしカタツムリとは違い、色や模様が変わるわけではなく、本当に体が出っぱっているだけである。しかし、そこからは果実のような甘酸っぱい匂いがしており、表皮も他の部位と比べて堅くなっている。シェル以外のところはゴムのような、無機質な臭いがする。

 その匂いに誘われ、シェルには虫がたかってくるが、数日もすればいなくなる。

 最大の驚くべき点はその食性である。エシックス・ナシゴレンは同種の肉体、またはそれに類する物質のみしか受け付けていない。それ以外の物質については、動物、植物、無機物含め、受け付けていない。口は何重もの弁があり、該当の物質以外のものはそこで弾かれる。軟体動物のような体つきだが、この弁は非常に強力で、びくともしない。

 そんな特殊な食性ではあるが、エシックス・ナシゴレンは、自発的に同種を共食いにはいかない。他の生物が肉体を抉り、それを目の前に差し出す必要がある。そうすると、啜るようにして食事をするのだ。

 外敵が存在するのではと思われるが心配はない。敵対行動こそは取らないが、自衛のために体から粘液を発射することがある。それは口からだけではなく、全身のあらゆる部位からも発射できる。

 痛覚もなく、目も見えないが、どれだけ傷つけられれば、自分の生体活動に支障をきたすのかは判断できているらしい。

 そして、粘液に接触した生物の肉体は、急速にエシックス・ナシゴレンへと置き換わる。

 正確に言えば、エシックス・ナシゴレンと同等の物質に置き換わる、というべきだろうが、どちらにせよ、生存はしていないだろう。そして、それらを貪り食うのだ。

 どのようなメカニズムとなるかは現在調査中であるが、おそらくエシックス・ナシゴレンの体内にある物質が、化学的反応を引き起こしているのだと思われる。

 その証拠か、体表と接触しているだけでは、問題はなかったし、エシックス・ナシゴレンの部位を補食した生物もまた、同様に置換されている。

 実はというと、この生物の補食対象の大半は、元々、この生物を補食しようとした生物の成れの果てであったりするようだ。

 さて、ここで疑問が一つ浮かび上がる。エシックス・ナシゴレンは自分と同じものしか食さない。ならば、自分自身の肉体そのものを与え続けたら、どうなるのか。

 まるでウロボロスのような問いかけだが、不思議なことに、自身の肉体だけを与え続けても飢餓には至らない。体重が増えることはおろか、減ることもない。糞便の類を出すわけでもなく、生体活動によるエネルギーの消費もない。エネルギーの移動が、この生物単独で循環している。さながら永久機関のように。

 誤解しないで頂きたいが、食事をしなくても生きていけるわけではない。食事を採らなければ数日で衰弱することが分かっている。ただ、その食材が自分の肉体でも構わないと言っているだけなのだ。

 矛盾した説明のように聞こえるが、そうではない。我々の現時点での結論はこうだ。

 エシックス・ナシゴレンの補食対象とは、食事と言う行為そのものである。彼(彼女)自身は自ら餌を捕ろうとしない。必ず第三者の介入がいる。その第三者……他の生物が補助を行う際に消費した時間的、空間的エネルギーを食べているのだ。

 これならば、エシックス・ナシゴレン自らが食事のために移動する際に消費されるエネルギーを捻出できる。実験の為に抉った箇所は、数日もすれば元通りに修復される。

 補食しようとして補食された、他の生物については、生体活動に必要なエネルギーとは別の、自身を成長させたり、繁殖に必要なエネルギーに変換されていると思われる。

 そういう意味では、この生物は究極的に自堕落で、効率的な生き方をしているとも言える。生存のために必要な行動を他者に押し付けているのだから。

 このように、奇妙な生活を営むエシックス・ナシゴレン。我々も興味の赴くままに調査をしているが、ひとつ問題が出てきた。巨大化しすぎて、最近入れるスペースがめっきり、なくなってしまったことだ。

 これも調査の上で分かったことだが、この生物の成長限界というものは存在しない。食せるものがあるのならば、貪欲に食らい続ける。そしてその分、体長と体重は増していくのだ。

 カーポナージャにいた頃は、餌となるような生物は精々、殻によりつく小虫や雑食の小動物程度のもので、大型動物は性質を分かっているのか、寄り付きさえもしなかった。だから、この生物が出産を行い、寿命で死ぬまでの間に、一メートル程度しか成長しなかった。しかし、この研究所内では実験の為に、様々な物質を大小問わず与え続けてきたのだ。

 馬鹿か屑しかしないこの業界では、この生物の調査は少々手に余るのか、昨日はまた一人分、体重が増えてしまった。

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