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時ノ糸~絆~  作者: 汐野悠翔
第1幕 京編
2/133

出会い

――時は平安。


貴族達の煌びやかな生活とは裏腹に、民は飢えや疫病、沢山の不安を抱えながら、明日の命すらままならない、不安定な生活をおくっていたそんな時代。

まだ幼い一人の孤児が生きるため、ある貴族の屋敷に忍び込んだ。

それが、この物語の全ての始まり。



「何やら外が騒がしい。何かあったのか?」


「賊が侵入したとか。姫様、危のうございますゆえ、騒ぎが静まるまでこの部屋からお出になりませぬよう」


「何、賊とな? それは面白そうな!」



左大臣家一の姫、藤原千紗ふじわらのちさ

今年七つになろうかと言うまだ幼い姫は、人一倍好奇心が強くお転婆な性格だった。

その性格故――



「それは是非とも見に行かねば!」



賊が侵入したと言う侍女の話にニヤリと楽しげな笑みを浮かべ、彼女達の制止をかいくぐり部屋の外へと飛び出して行く。


挿絵(By みてみん)


「ひ、姫様……なりません! 危のう御座います、姫様っっっ!!」





数人の侍女が、追いかけて来る中、姫は彼女等をまこうと裸足のまま庭へ降り、茂みへと隠れた。

顔負けの活発さ。

茂みに隠れ、侍女達が通り過ぎるのを声を潜めて待っていると、後ろからカサカサと聞こえる微かな物音に気がつく。

姫は、その物音に好奇心を駆り立てられ、一歩、また一歩物音へと近づいて行った。



「そこに誰かおるのか?」



そう問い掛けながら、音のした茂みを覗いてみる。

すると――


挿絵(By みてみん)



「うわぁぁぁ~~」



驚いた様子で、一人の男の子が大声をあげ、勢いよく茂みの中から飛び出して来た。

よくよく見れば、その男の子は姫とそう年の変わらない様子。



「アホかお主。我が屋敷に忍び込んでおきながら自ら姿をばらしてどうする」


「……?」


「お主が賊であろう? なのにそんな大声をあげては、自分の居場所を知らせているものではないか」


「……あっ」



男の子の間抜けな反応に、やれやれとため息をつく姫。

彼女のその態度が気に障ったのか、男の子は姫に掴みかかった。



「もとはと言えば、お前が驚かせたのが悪いんだろ!」


「ちょっと声掛けただけではないか。勝手に驚いて声を上げたのはお主だ。そもそも、あれしきの事で驚くとは男のクセに情けない」


「な、何?!」



怒りからなのか、恥ずかしさからなのか、男の子は顔を真っ赤にしながら、姫に殴りかかろうと拳を振り上げた。



「はいっ、そこまで!」



だが、振り上げられたその手は下ろされる事は叶わずに、不意に後ろから掴まれてしまった。



「っ!」



予想もしていなかった出来事に、男の子はビクッと体を強ばらせ、恐る恐る後ろを振り返る。

と、そこには、賊の男の子よりも頭二個分大きい、でもまだ年若い少年が呆れ顔で立っていた。



「千紗、お前な……賊が侵入したって言うのに部屋を抜け出して、余計騒ぎ大きくしやがって。しまいにはその騒ぎの原因に喧嘩ふっかるとは、とんだお転婆娘だ」

「小次郎、遅いではないか。あと少し来るのが遅かったら、妾の玉のような肌に傷がつく所だったぞ」

「……」



突然言い争いを始める姫と少年。



「………」



二人の間に挟まれ、逃げる事も忘れ、呆気に取られる賊の男の子。

我に帰った頃には、時既に遅し。



「姫っっ、ご無事で?!」

「小次郎、そやつが賊か!」

「こいつ、姫に何たる無礼を、許すまじ!!」



騒ぎを聞きつけ屋敷の警護の者達が駆け付け、四方を囲まれた後だった。



「小次郎、よく捕まえた! そやつをこちらに引き渡せ」



数人の大人達が賊の男の子を連行しようと掴みかかる。

その乱暴な扱いに、男の子は必死に抵抗した。



「っなせ、離せよ! お前等なんか大っ嫌いだ。お前等貴族のせいで、おいら達は食うこともままならねぇ。なのにお前等ばっかり贅沢な暮らししやがって! お前等のせいで父ちゃんも母ちゃんも死んで……おいら一人になっちまった。生きる為に食いもん求めて何が悪い。ちきしょ……離せ、離せよぉ!!」



だが少年の必死の抵抗も大人には適うはずもなく、拘束され、乱暴に警護の者達に連れて行かれる。

男の子の顔はボロボロとこぼれ落ちる悔し涙でクシャクシャだった。

そんな時、不意に後ろから声が飛んだ。



「待て、そやつを離してやれ」

「姫様?」

「そやつは新しくついた妾の護衛だ。妾が我が儘を言って、“賊ごっこ“をしていただけじゃ。のう、小次郎」

「はい姫様。その子は、我が武士団の棟梁が先日養子にもらい受け、我と共に姫の護衛の任を受けた子。紹介が遅れた事、悪ふざけが過ぎて賊騒ぎにまで発展させてしまった事は申し訳なく思いますが、どうか許してやってはもらえませんか?」



二人の急な弁明に戸惑いながらも、左大臣家一の姫である千紗と、館を守る武士団棟梁の養子である小次郎に言われては、逆らう事も出来なくて



「姫様と若棟梁が仰るのなら……」



と、あっさり男の子は解放され、賊騒ぎは無事幕を閉じた。





「……何であんな嘘をついておいらを助けた?」



騒ぎも治まり、屋敷の護衛の者達がそれぞれ持ち場に戻って行った後、賊の男の子は、姫と姫の護衛を名乗る少年に疑問を投げかけた。



「嘘ではない。妾はそちが気に入った。だから今後妾の護衛として、側に置いてやろうと決めたのだ」

「この我が儘なお姫様がそんな調子だったんでね、俺も話を合わせたのさ。俺もある事情からこの屋敷に拾ってもらった口だ。棟梁には俺から話をつけておいてやる。今日からお前は俺の義弟だ。よろしくな」



なんとはなしに言ってのける二人に呆気にとられながら、何故か沸き上がる嬉しい気持ち。

そんな不思議な感覚に戸惑い、素直になれない男の子は二人に悪態づく。



「な、何勝手な事言ってやがる。おいらは貴族が大っっ嫌いなんだ。なんで貴族を守る家の養子に入らないといけないんだ」

「これは命令ぞ! 素直に聞き入れよ!!」

「だから、そう言う偉そうな所が嫌いなんだっ! 勝手に命令なんかすんな」

「生意気な!」

「どっちが!」



二人の言い争いにクスクスと笑いを零す護衛の少年、小次郎。



「笑うなぁ~!」

「何を笑っておる!」




こうして三人は出会い、そして、この先の未来へと共に歩んで行く事となる。



摂関家せっかんけ

摂政・関白に任ぜられる家柄。

摂政、関白は、君主に代わって政治を執り行う人のことで、天皇が幼少であったり、または女帝などのときに代わって政治を行っていました。



侍女じじょ

王族・貴族または上流階級の婦人に個人的に仕えて雑用や身の回りの世話をする女性。

現代ではお金持ちのお手伝いさんとか家政婦さんを想像して頂ければ(多分)大丈夫です。


●武士団

武士の集団。(平安時代当時は武士とは呼ばずつわものと呼ばれていた。)貴族は自身の所有する領地や財を守る為に、自身よりも位が低く、また武力に長けた人間を雇い財を守らせていたのだそうです。

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