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時ノ糸~絆~  作者: 汐野悠翔
第1幕 京編
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序章


「どうして……どうしてこんな……」


赤く生暖かいものが顔や体に飛び散った。


挿絵(By みてみん)


秋成に突き刺さる刃。

それを突き刺さしているのは彼の義理の兄、小次郎。



「どうして?どうして二人が……」



不意に秋成の体がぐらりと揺らぎ、力なくその場に崩れ落ちていく。

千紗は倒れ込む秋成を抱き起こし、血を止めようと必死に傷口を押さえた。

手に感じる生暖かいもの。

それはとめどなく溢れ出し、秋成の着物をじわじわと赤く染め上げていく。

そんな二人を、ポタポタと赤い雫が滴る刃を真っ赤に染めた手で握りしめながら、小次郎は苦痛に歪んだ顔で見下ろしていた。

千紗は涙でくしゃくしゃになった顔を上げ、きつく小次郎を睨みつける。



「どうして……どうして秋成をっ!!」



そして、叫びにも似た声で小次郎を責め立てた。



挿絵(By みてみん)


すると小次郎は只一言「すまない」と短く答えただけで、前髪に隠された顔には一粒の涙が零れ落ちていた。



「そんな顔するならどうして……どうしてこんな……」



涙する小次郎に、千紗はそれ以上何も言う事はできなくて、誰に怒りをぶつければ良いのか、どうすれば秋成を助けられるのか、やるせなさに強く唇を噛み締めた。

そして気が付けば、秋成にあたってしまっていた。



「秋成のバカ者!約束したではないか。いつも私の側にいると。側で守ってくれると、約束したではないか……」



後から後から流れ落ちる涙を必死に拭いながら、傷 を追った秋成に責めるような言葉を吐き捨てる千紗。


不意に彼女の頬に、秋成の手が伸ばされる。

ひんやりと冷たい秋成の手が千紗の頬に触れた。



「……秋成?」

「そんな顔……するな……千紗。俺は……これからもお前の側で……お前を守る……から………」

「嘘じゃ! 死んでしまったら、もう側になどおれぬではないか! 守ってなど……貰えぬではないか……」



千紗の涙ながらの言葉に、ふっと優しい笑みを浮かべた秋成。

けれども笑顔を見せた次の瞬間、千紗の頬に触れていた秋成の手は力を失い、地面へとゆっくり、下ろされていく――



「……秋成? 秋……成………? 秋成~〜〜!!」



暫くの間、何度となく彼の名を呼んだ千紗。

けれどもあの笑顔を最後に、二度と千紗の声に秋成が答る事はなくて――



「……いやぁぁぁぁぁ~~~~~~」



哀しみや絶望、怒り、整理のつかやい様々な感情が千紗の中で叫びとなって、辺りに響き渡った。





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