第7話 見えてきた繋がり、解け始める謎
ガバガバ推理のミステリーもどきです。
良ければ推理してみてください(^_^;)
それでは、どうぞ(^-^)/
一般教養クラス初日の夜。 我輩は寮の部屋で錆びた蹄鉄を弄んでいた。考えをまとめたいときの癖である。今日1日で余りに多くのことがあったから、整理の必要があるのだ。
「この事はタマにも話していない。彼は悪い奴では無いが、長老の血に近い。ハーフに対して好意的には振る舞えないだろう。ノートン、クララを頼む。」
「……勝手なお願いでごめんなさい。私、人付き合いに自信がなくて、その、大事なことも相談出来なくて、迷惑かけてばかりで……」
当然だが、我輩はクララにそれ以上言わせなかった。学友が助け合うのは当然のことであるし、何よりクララが自分のことを悪く言うのは良くないと思ったのだ。
「クララ、君が魅力的な淑女であることは我輩が保証する。何かあれば助けるし、相談にのる。だから、もっと自分に自信を持ちたまえ。」
「……うん!ありがとう!えへへ、私、がんばってノートン君に話しかけて良かった!」
今思い出しても、クララの笑顔は眩しく感じる。もしも、前世の我輩に子供や孫が居たならばこんな気持ちになっていたのだろうか?
(クララのことも大事だが、朝に出会った小人の先輩のこともある。結局、本人に会うこともできず、この蹄鉄を持って帰ってきてしまった。)
ナモ族同族会の会長であるミャコ先輩は、妖精族の忘れ物はプレゼントみたいなもんだ、と言っていたがそれで本当に良いのだろうか?
(次に会った時に返せば良いのかなぁ……)
そこまで考えたところでミコワイとタマが帰ってきた。ずいぶん遅い。門限ギリギリだ。
「ノートン、俺を褒めて欲しいんだぜ〜!今までずっと授業の予習だっていって、1人でレポートを書かされていたんだぜ〜!くたくたなんだぜ〜!」
「拙者も、いろんな部署をたらい回しにされたでござる……しかも、間違えて貴族向けの窓口に並んだら、偉そうなボンボンに絡まれたでござる……同族会の会長に助けてもらったでござるが、同族会への挨拶がまだだったから、結局張っ倒されたでござる……」
2人とも大変だったようだ。我輩はとりあえずコップに水を注ぎ、タマとミコワイに差し出した。
「ありがたいでござる。この学校で信じられるのは友人だけでござる。」
「まったくだぜ、タマ!ノートン!俺たちは生まれた日は違えども、同室となった以上はもはや義兄弟‼︎信じ合い、助け合っていきたいんだぜ!」
はいはい、と我輩は苦笑した。水を渡しただけでそこまで言われては照れくさい。しかし、それだけ新生活の始まりで緊張し疲れていたのだろう。
我輩達は消灯時間よりも早く寝ることにした。休みをとれる時にとるのも戦士のつとめである。
翌朝、疾風号の世話はみんなで出かけた。ミコワイも実家と違い自分で馬の世話をするのだと気づいたので早起きし、タマはまだ馬はいないが朝の運動だ、と言って手伝ってくれた。
「ノートンもミャコ先輩に会ったでござるか。士官学校は広いようで、狭いでござるな。『かつおぶし』が好物らしいから、何か頼む時はプレゼントすると良いでござる。」
「『リア充』や『チョロイン』は辞書には載っていないと思うんだぜ!大衆小説やお芝居の用語で、いわゆる俗語なんだぜ!あんまり日常生活で使うと、貴族としての品位を問われるんだぜ!ノートンも気をつけるんだぜ!」
やはり、持つべきものは友達だ。辞書や教科書に載っていることだけでは異世界で暮らせない。どんな社会にも暗黙のルールはあり、それを知っているのは共同体の構成員だけなのだ。
そうしてまた、一般教養の授業が始まった。今日はポーバニア古典文学の講義があったのだが、ゾグ教官は始めにちょっとしたクイズを出した。
「古典文学を学ぶ前に少し戦術について教えてやるのであーる。どうやら一般教養なんぞ省略して専門的なことを学びたい者が多いようであーるからな。」
ミコワイがバツの悪そうな顔をする。昨日のことを思い出したのだろうか?
「前の大戦では膨大な兵力が動員され、国境は兵士の壁で仕切られた。しかし、パンタラッサ連合王国の水没と共和国の崩壊を中心とした災厄により、世界の人口は100年前の水準に戻ってしまったのであーる。結果、戦勝国である神聖帝国でさえ、我々の世代で再び国家総力戦を実行するのは不可能、と言われているのであーる。」
パンタラッサという国は初めて聞くが、水没したとは穏やかではない。自然災害か、なんらかの兵器によるものかは知らないが、前世の第一次世界大戦よりも遥かに多くの人命が失われたに違いない。
「そのため戦争の形は再び点の戦い、すなわち戦術範囲内における会戦の繰り返しになると考えられるのであーる。つまり指揮官の個人的な決断が戦争の行方を左右する可能性が高まっているのであーる!」
ふむ、飛行機や戦車といった兵器がありながら、広い目で見ればナポレオン戦争以前の戦いが再現されようとしているわけか……トンデモない世界に来たものだな。
「では、ここでクイズであーる!諸君の指揮する部隊が城に立て籠もっているとする。大勢の敵に囲まれ、思い切って撃って出るか、籠城を続けるか決断しなくてはならない。どちらを選ぶのが良いであろうか?」
「はい!もちろん撃って出るのが良いと思います。籠城を続けてもいずれは降伏するしかありません。余力があるうちに脱出するべきです!」
我輩は、突撃の精神を持って解答した。即決即断、素早い行動こそ勝利の鍵である。
「馬鹿者!30点であーる!他の者は意見はないか⁉︎」
前のほうの席に座るシェルナが勝ち誇ったような笑みをこちらに向けてから挙手した。2択だからもう正解した気でいるのだろう。
「はい!私は籠城するべきだと考えます。少しでも長く敵の部隊を引きつけ、援軍を待ってから攻撃を始めるのが最良かと。」
「馬鹿者!貴様も30点であーる!他にいないか⁉︎」
シェルナが全てを失ったような顔をしている。自信を持っての解答がわずか30点の評価に終わったのが、よほどショックなのだろう。
(2択のクイズかと思ったが、我輩とシェルナの点を合わせても60点。100点満点の正解には何かが根本的に足らないようだな……)
我輩が考え込んでいると、意外にもクララが挙手した。普段は消極的な娘かと思ったが自信あり気だ。自己紹介の時のような闘志を感じる。
「はい。教官の質問に答えることは出来ません。」
ほう、とゾグ教官が続きを促す。……なるほど、我輩もわかったぞ!
「教官の説明では部隊の置かれている状況がわかりません。自分の指揮できる部隊の数も、城を囲んでいる敵の数も、近くに味方がいるのか、敵に増援が来るのかもわかりません。それにお互いの補給状況や兵器の種類もわからない以上、決断を下すことは出来ません。」
情報収集を怠り、思い込みで作戦を立てるのは兵士を無用に死なせる、指揮官として恥ずべき行為です。クララの言葉に我輩は恥ずかしくなった。
情報は大切。入学最終試験のとき、我輩がミコワイ達に言ったことではないか。我輩は学園生活の楽しみの中で大切なことを忘れていた。反省だ。
見ると、シェルナにもクララの言葉がグサリと刺さったらしい。すっかり肩を落として項垂れている。しかし、当のクララは我輩達のことなど眼中にない様でゾグ教官をジッと睨みつけていた。どうしたのであろうか?
「……正解であーる。戦術をいくら知っていても、時と場合に相応しいものを選べなくては意味が無い。限られた情報から最良の方法を求める力、それを身に付けるのが一般教養の授業なのであーる。……さあ、クイズは終わりであーる!全員、古典の教科書を開くのであーる!」
ゾグ教官はクララの視線から逃げるかの様に古典文学の解説を始める。我輩にとっては初めて聞く話ばかりで楽しかったが、クララはずっとゾグ教官を睨みつけていた。
「なぁ、クララはゾグ教官と以前からの知り合いなのか?」
1限の授業を終えた後、我輩は思い切ってクララに尋ねた。彼女は驚きの表情を浮かべて我輩を見る。
「……どうして、そう思ったの?」
「授業中、教官のことをジッと見ていた様だから。それに、なんとなくだが教官と関わる時のクララはいつもと違う気がしてな。まあ、昨日初めて会った我輩がこんなことを言うのもおかしいが……」
えへへ、あんまり見られると恥ずかしいな……クララはそんな風に話題を逸らし黙ってしまった。とても話しかけて良い様子ではなかったので、我輩はお手洗いに行くことにして場を離れた。
(淑女が悩んでいるようなのに逃げ出すとは、我ながら情けない。しかし無理矢理聞き出すわけにもいかないからな……)
そんな我輩の心を美しい廊下が癒してくれる。煉瓦の赤と漆喰の白、それに木でできた骨組み。実に美しい。しかし鉄筋コンクリート造の建物も既にあるこの国で、あえて士官学校に木骨煉瓦造を採用しているのは何故だろう?
そんなこんなで、トイレに着いた我輩が用をたしているとクラスメイトのナタンジーが話しかけてきた。
「さっきの授業ではしくじったな、異世界大将軍。そんな君に見せたいものがある。準備しておくから明日の放課後、空けておきたまえ。『低い城』をご案内しよう。」
「なんだい?『低い城』ってのは?」
ふふふふふ、我輩の問いかけに彼はただ意味ありげに笑うだけだった。
2限の授業は数学で、やはりレクリエーションから始まったが、我輩はここで懐かしのモールス信号に再会した。
「これは言語を短点と長点の2つの信号の組合せに置き換えたものだ。単純に暗記しても良いが、数学的視点を持って法則を理解しておくと、暗号の作成や解読に便利だぞ!」
ロンシャンからの亡命貴族だという砲兵科の教官はそう説明した。ポーバニア語は我輩が前世で母語とした英語に比べ文字の数が多いので、もちろんモールス信号も異なる。どうやら出現頻度を考慮していないらしい。覚えやすいが、使い勝手は悪そうだ。(モールス信号における出現頻度の考慮とは、よく使う文字を簡単な信号にすること。ポーバニアのモールス信号は文字の種類が多いのに出現頻度を考慮していないため、信号文が長くなってしまう。)
我輩が四苦八苦している中、流石は砲兵志望と言うべきか?シェリナは積極的に発言し教官に高く評価されていた。それは良いのだが、褒められるたびに勝ち誇ったように我輩を見てくるのは少々腹立たしいな。
他にも何名か発言を求められていたが、エージェントAがスラスラと解答していたのが印象的だった。彼も教官に対しては「禁則事項だ」とは言わないようだ。情報科の俗語なのかもしれない。昨日クララを尾行していたし、ちょっと彼について調べた方が良いかもしれないな。
そして、2限が終わればHRだ。今週いっぱいは午前で放課であるから、今日は部活動でも見学するかな!明日はナタンジーが何か見せてくれるというし、早いとこ馬術部がないか確かめて……
「最後に、ノートンは放課後、教官室に来るのであーる。聞きたいことがあるのであーる。」
……ゾグ教官に呼び出しを受けてしまった。くそぅ!一体何の用だというのか?
「わはは、ノートン!俺とお前はやっぱり似た者同士、義兄弟なんだぜ!レポートがんばるんだぜ!」
「ミコワイに続いてノートンまで呼び出しを受けるとは、明日はまさか拙者でござろうか?」
我輩がささくれ立つ心を落ち着けようと蹄鉄をいじっていたら、ミコワイとタマが冷やかしに来た。まだ悪い話で呼ばれたとは限らないのだが……
その時、我輩の芦毛の脳細胞に電流が走った!
「なぁ、ミコワイ。昨日の放課後は1人でレポートを書いていたんだよな?」
「そうなんだぜ!ゾグ教官はレポート用紙と資料だけ置いてどっかに行っちまったんだぜ!あっ、だからと言ってサボるのは無理なんだぜ!教官室の奥の静かな部屋に閉じ込められるんだぜ!」
なるほど、そういうことか……
我輩は義兄弟2人にしばしの別れを告げると、真相を確かめるべく教官室へ向かった。
芦毛というのは馬の毛色のことで、英語だとGray。
ノートンは何でも馬に例えるのが好きみたいですね(^o^)
さて、次回予告。
ゾグ教官の聞きたいこととは何か?
クララの悩みとは一体?
ノートンの運命やいかに⁉︎
第8話 結局は勘!感!完⁉︎
投稿は1週間以内を予定していますが、たぶん遅れます……
お楽しみに(^-^)/