第4.5話 余談だが……士官学校編
細かい設定ばかりですが、楽しんでもらえるように解説者をお呼びしました!
このエピソードがあなたにとっての、楽しき寄り道になりますように。
やあ、こんにちは。
私は……そうだな、ノートン達と同じ時代を生きる者、「同時代の歴史家」だ。
後世の歴史家に比べたら格は落ちる。とはいえ歴史家には変わりないから、ノートン達に比べれば広い視野を、「鳥瞰」を持つといえるだろう。
それが私が同時代人という枷を自覚しながらも、この解説役を引き受けた理由のひとつだ。
話が逸れたね。まぁ、叙述トリックなぞ警戒せず楽しく読んで欲しいな。私も物書きの端くれ。読まれてこその解説さ。
今日はポーバニア王国の所謂「士官学校」について話そう。
私にいわせれば、アレは士官学校などではない。
アレは都市、「戦争の街」だ。
制式名称「ミエシコ1世記念王立国軍総合学校」
余談だが、ミエシコ1世とは中世の王の名で、彼は史上初めてポーラ人とバニア人を統合し、大ポーバニア王国を築いた。
この国は、当時最強を誇った遊牧民族ナモの襲撃から西方世界を救う防壁としての役割を果たした、と一般には理解されている。
しかしながら、ちょっと歴史を齧ればそれが1面的な見方に過ぎないとわかるはずだ。
大ポーバニア王国の敵はナモ族だけではなかった。神聖帝国、同じ西方世界の大国が彼等を背後から狙っていたんだ。
まさに現在、西の神聖帝国(第17王朝)と東のロンシャン連邦がポーバニア王国を狙っているように。
さて、この士官学校は16才前後で入学し、4年間学ぶことになっている。
諸外国の士官学校に比べると入学年齢が低く、就学期間が長いのが特徴だ。それは何故か?
それを知るためにも、この国の成り立ちを見てみよう。
前の大戦争の時、ポーバニアの大地は神聖帝国とロンシャン帝国の兵士の死体で埋め尽くされた。
兵士だけではない。この地に住むポーラ人やバニア人は食料を軍隊に奪われ、家を焼かれ、井戸に毒を投げ込まれ……ありとあらゆる手段で苦しめられ、同胞の遺体を埋葬することすら叶わなかった。
この苦しみが大ポーバニア王国の崩壊以降、離れ離れになっていた2つの民族を結びつけた。
後にポーバニア王国となる土地は、ロンシャン帝国の領土でありながら神聖帝国の占領下にあった。つまり戦いは神聖帝国がやや優勢だった。
しかし神聖帝国は西の共和国との決着を望んでおり、ロンシャン帝国に対して妥協する用意があった。
そんな中、ロンシャン帝国の皇帝がクーデターにより廃位される。「ロンシャン革命」だ。反乱軍は速やかに全軍を掌握し、ロンシャン連邦の成立を宣言した。
その直前、神聖帝国の支援を受けポーバニアでもひとつの組織が立ち上げられていた。ポーラ人とバニア人による自治組織「ポーバニア独立委員会」である。
神聖帝国はロンシャン帝国との戦争に参加させる目的でポーバニアの独立を認めようとしたが、予想外に早くロンシャン革命が成功してしまった。ポーバニア独立委員会はロンシャン連邦との講和の邪魔になった。
神聖帝国の皇帝は、問題をロンシャン連邦に丸投げした。「ロンシャン帝国時代の領土を新政府に認める」という内容で講和したのだ。
神聖帝国は共和国との戦いに全力を投じ、勝利することになるが、ポーバニアは再びロンシャン人の支配下に置かれることとなった。
しかし、ポーラ人やバニア人は焦土作戦(土地にある敵が使えそうな物をみんな壊してから逃げること)をポーバニアの大地で行ったロンシャン人を許さなかった。
かくして、ポーバニア独立委員会はミエシコ1世の血を引くとされる男を祭り上げ、ポーバニア王国の成立を宣言した。
独立戦争は短くも激しいものだった。すでにかつての栄光は失っていたものの、重要な騎兵戦力としてナモ族もポーバニア王の下で戦った。
ロンシャン連邦は、戦争が長引くことでロンシャン国民の心が新政府から離れてしまうことを恐れ、ポーバニア王国の独立を認めた。
このためロンシャン連邦は、しばらく国内の少数民族の独立運動に悩まされ、内戦に近い状態が続いた。地方自治を認めることで、治安が安定したのはつい最近だ。
また、ポーバニア王国も喜んでばかりはいられなかった。大戦争と独立戦争のために国土は荒れ果てていた。さらに共和国の崩壊によって勝利した神聖帝国は、再び東に目を向け始めていた。
もはや何でもするしかなかった。16才以上の人間は性別、民族、身分に関わりなく武器の扱いを教えられ、職場や学校では暇を見つけて軍事訓練が行われた。
幸い神聖帝国も疲れきっていたため、独立は維持された。国民全員が兵士という狂った日常は、数年で終わった。
しかし、その体験は伝統として受け継がれ、ポーバニアの士官学校は16才前後で入学し4年かけて学ぶ、士官学校と高等学校を兼ねた施設になった、というわけだ。
さらにいえば、国土復興の一環として士官学校は計画都市としての側面を持たされた。
士官学校が専門分野ごとに分けられず、軍事に関わる全ての要素を詰め込んだ「戦争の街」となったのはこのためである。
現在の士官学校では、軍需工業のみならず農業や商業、日用品生産を仕事とする一般市民がたくさん暮らしている。
ただし、生徒は集団行動を叩き込むために例外なく学生寮で寝泊まりだ。貴族のボンボンは大変だぞ!
また、制服も存在する。軍服よりもずっと華やかなデザインであり、子供達の憧れの的だ。私もあのデザイン好きだったから、今も記念にとってある。流石に卒業してからは袖を通していないけど。最近は制服目当てで士官学校を受験する人も、男女問わずいるらしいね。
しかし内部組織は複雑だ。士官学校には教育機関、行政機関、そして国軍の要塞としての指揮系統が入り乱れている。
まぁ、ノートン達の学園生活をのぞくだけならば、そんな大人達の話より大切なことがある。
学生派閥だ。
クラスの人気者とか嫌われ者とか、そんなレベルの話ではない。兵科ごとに分かれた、軍人になり退役するまで、下手すれば死ぬまで続く腐れ縁の始まりだ。
ちなみに、士官学校設立初期にはこの対立が若さゆえに過激化し、内戦の一歩手前までいった。
このため、軍事訓練の時はともかく一般教養を学ぶ時は、複数の兵科の生徒で構成されたクラスを編成することになった。
↑ここは学園生活において非常に重要な点だ。気になる他兵科のあの人と、仲良くなるならここしかない!
話を戻そう。注目すべき学生派閥は6つだ。
第1、歩兵科。数が多く主に平民から構成される。地味に思えるかもしれないが、彼らこそは戦場の華。歩兵がいなければ戦いにならないのだ。
第2、騎兵科。ノートン達がいるところだ。最近は人気がなく、成績が悪くても入れてしまうという噂だ。しかし、貴族の割合が高いので侮れない。
第3、砲兵科。平民の星ミス・シェルナはここにいる。彼女の存在からもわかるように平民、それも優秀な者が集まる兵科だ。計算が得意でなくては大砲は撃てない。しかし、計算さえ素早くできるなら身分は問わない。問題があるとすれば火薬式と魔法式の大砲があって、兵科内で対立していることだ。
第4、機甲科。戦車乗りを育てるところだ。新しい物好きな貴族や機械好きの平民がおり、人数あたりの予算はかなり多いほう。騎兵科を目の敵にしている。
第5、航空科。命知らずでキザな奴しかいない。中身は飛行機や気球、それに飛竜と多彩だが、みんな仲が良い。空の上では人は自由なのだ。魔法の力で非力さを補える点が多く、女子の割合が高め。
最後が、魔法使役物科。名前があまりに事務的でダサいので、彼らは自分達を「使役者」と呼んでいる。魔法によって作られたスライムやゴーレムを操るため、魔力がかなり高くないと入れない。魔力が高いと無理矢理入らされる。タマの先輩のナモ族やその他の少数民族は、ほとんどこの科にいる。女子の数が男子に勝る唯一の科である。
他にも、みんなの健康を守る衛生科や、ツウ好みの兵站科、謎に包まれた情報科、それに母なるルー川の騎士、河川艦隊科なんてのもあるが、あんまりケンカには出てこないな。
ちなみに、我が青春の戦史編纂科は学内随一の穏健派だった。今も変わらないだろうなぁ。カビ臭い書庫や開けたばかりインク壺の香り。何もかもがみな懐かしいよ。
しかしノートンのような、波乱に満ちるに違いない青春も面白そうだね。ミス・シェルナとの最終試験はワクワクしたよ。私の代の最終試験はあっさりしたもので、私がオロオロしているうちに貴族隊が勝って、すぐに講和条約が結ばれたんだ。家宝の鎧を出していったのに、少しも見せ場がなかったなぁ。
結局、ノートンとミス・シェルナは講和を結ばなかった。ポーバニア人としては平民と貴族が不仲なのは不安だが、歴史家としては何が起きるのか楽しみだな!
……おっと、そろそろ行かないと。
私もそれなりに忙しくてね。例えばこの前、画家に竜騎兵を描かせたんだ。飛竜に乗るヤツと間違えないように、(空を飛ばないもの)と注意書きもしたんだ。
そうしたらあの画家め、何をしたと思う?
なんと、騎士を大トカゲに乗せて竜騎兵だと言ったんだ!
国や時代によって定義は異なるけれど、ポーバニア戦史で竜騎兵(空を飛ばないもの)と言ったら、「馬に乗って移動する歩兵」のことだよ!
まぁ、最近は重騎兵も軽騎兵も竜騎兵も統合されちゃって、ただ単に「騎兵」って呼ぶのが国軍の正式名称なんだけどね。
さぁ、今度こそ本当にお別れだ。どうせすぐにまた会うことになるだろうが、ちょっと寂しいな。
私はノートン達と同じ時代、同じ国に生きているけれど、よほどの事がないと彼らの物語には関われないからね。
では、またお会いしましょう。
さようなら!
いかがでしたか?
現在のポーバニア王国は、あまり長い歴史を持ちません。
だからこそ、自分達は何者なのかを知るために、歴史家達は彼らの戦場を駆け抜けるのです!
さて、次回はお待ちかね!
一般教養を学ぶためのクラスが編成されます!
ノートンの前に立ちはだかる、他兵科の秀才達。
君は、生き残る事が出来るか⁉︎
第5話 気になるあの娘は砲兵科
投稿はすこし休みをいただいて、水曜日の午後を予定しております。
お楽しみに(^-^)/