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ヒヤシンス  作者: 新々
8/22

大山百合

 むかーし、むかしのこと。


 そう、あれは北のほうの村だったかね、ひとりのかわいらしいむすめがおったんじゃと。

 でもかわいそうに、小さい頃におとうもおかあも亡くしてな、兄弟姉妹きょうだいもおらんかったから、ずっとひとりで暮らしておったそうじゃ。


 娘は裏山に咲く山百合の花が大好きでな、それはたいそう大きな山百合で、たけは娘ほどもあって、いつもいい香りがしておったそうな。

 娘は毎日毎日その大山百合に話しかけては笑ったり泣いたり、時には蜜をこっそり舐めたりしてな、楽しく暮らしておったんじゃが。


 夏が終わる頃にはその山百合もしおれてしもうて。

 香りも夢のように薄らいでしまったんじゃと。


 悲しんだ娘はその大山百合の花に口づけをしてな、良くなるようにおまじないをしたんじゃ。そのおかげか大山百合もしばらくは生きながらえたんじゃが、秋の頃、娘が重いやまいで寝たきりになってからは段々とまた萎れてしもうてな。


 それは雪がたいそう降った日じゃった。


「ごめんくださいまし」


 そばかすをつけた若い女がひとり、娘のもとを訪れてな、寝たきりの娘をかいがいしく世話し始めたんじゃ。娘も娘で女の香りにどこか懐かしさを覚えてな、あれこれ頼っておったんじゃが。

 それもで病はなかなか治らんくてな。

 見かねた女がある夜、こういったんじゃ。


「少し目を閉じていただけますか。でも、わたくしが開けてよいというまで、決して目を開いてはなりません」


 娘は素直にしたがって目を閉じてな、じーっと待っとったら、ふっと甘いものが口の中に流れ込んできたんじゃ。

 それはあの山百合の蜜の味そっくりでな。

 懐かしさでつい目を開けたら、娘に口づけをする女と目が合ってしもうたんじゃ。


 はっとした時にはもう女はおらんと。

 そこにはただ萎れた山百合の花がひとつ、娘の上に横たわっておったそうじゃ。


 そののち、病が治った娘は庭に大山百合の墓をこしらえてな、それから毎日毎日話しかけては笑ったり泣いたりしながら、ひとり幸せに暮らしていったんじゃと。


 めでたし、めでたし。


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