甘いウソ
「相変わらず結ぶのヘタだね」
下校中、道端で靴ひもを結ぶ私に幼馴染があきれたようにそういった。
立ち上がって、預けていた鞄を受け取りながらこう返す。
「そっちも相変わらず上手ですね。女子をたぶらかすのが」
「たぶらかすって、人聞きが悪いなあ」
じゃあその膨れ上がった鞄はなんなの?
バレンタインの今日、幼馴染は今年も学校中の女の子からチョコをもらっていた。
ベリショに整った顔立ちはたしかに男子よりもかっこいいし、同じ中学生には見えないけど、性格は男子よりも全然ガサツだし、けっこう子供っぽい部分もあったりして。
イタズラが好きなところとか、特に。
「でも困るんだよね、あたし甘いの苦手だからさ。ねえ何個かもらってくんない?」
「謹んでお断りいたします」
「ちぇっ。まあでもせっかくだし、一個ぐらい食べようかな」
そういって鞄から取り出したのは、なんの偶然か私があげたものだった。といっても、こっそり鞄の中に入れたから直接渡したわけじゃないけど。
中身も普通の生チョコだし。もちろん甘さ控えめで。
ラッピングは、まあ凝ったほうかな。
「さっきのチョコありがとね。おいしかったよ」
別れ道で、幼馴染がふと思い出したようにそういった。
「……気づいてたの?」
「あんなリボンの結び方する娘なんて、あたしの知ってる限りひとりしかいないからね」
私の足もとをちらっと見て、得意気に笑う。
「今年はもらえないのかなって思ってちょっと寂しかったからさ、なんかすごくうれしかった。でもごめん。あたし、なんにも用意してないんだ」
その言葉がまったくのウソだと知ったのは、部屋で鞄を開けた時だった。
「……やられた」
中には私の大好きなチョコのお菓子が、コンビニの袋ごと入っていて。
本当にガサツで、子供っぽくて。
「私以外の誰かにあげてたら、許さないから」
了