閉じキス
「ねえ、キスしていい?」
わたしの声に、彼女の視線が本から離れる。
「キス。ダメ?」
「ダメ……じゃないけど」
そういって、本で顔を隠す彼女。
はみ出た耳がうっすら赤くなる。
つき合ってそろそろ一ヶ月。デートも何回かしたし、手もつないだし、抱き合うこともしたけど、キスはまだ一回もしてなかった。たしかに学校じゃ難しいけど。
「大丈夫、誰もいないよ」
ここ、わたしの部屋だし。それにふたりっきりだし。
「一瞬だけ、ちゅってするだけだから」
しばらくして、すっと本が降ろされた。わたしはそれが合図だと思って顔を近づけたのだけど。
「ぶぇっ」
本を顔面に叩きつけられてしまった。
思いっきり拒否されて、だいぶへこむ。
そんなわたしをよそに、何ごともなかったように再び本を読み始める彼女。
なにそれ。そんなに本が好きなの?
なら、本とつき合っちゃえば?
思わず口に出しそうになった瞬間、彼女が髪をかき上げて本にキスをした。まるでわたしに見せつけるように。
「なんでよ」
思わず涙声になる。
「なんで本にキスして、わたしには」
「ち、違うから」
「違うってなにが」
見てて、と急に大声を出して、ぱたりと本を閉じる。
「ほら、キス……したよ。ちゃんと」
「本にでしょ?」
彼女が長い髪ごとぶんぶん首を振る。
「わ、私が右のページで、そっちが左のページで、こうやって閉じたから、だから、キ、キス」
よくわからなかった。それにわたしは本にキスした憶えなんて──と、そこでさっき本を叩きつけられたことを思い出す。いや、あれはキスっていうか。
「……じゃあもう一回しよ。さっきの、なんか事故みたいだったし」
小さく頷いて彼女が本を渡してくる。隙あり、とばかりに、わたしはその腕をぐっと引き寄せて。
今度は静かに瞼を閉じた。 了




