もう、好きにして
「待ってくださーい、お嬢様ぁ」
「ああ、もうっ! 追いかけてくんなっつーの!」
無駄に長い廊下を走りながら、あたしは叫んだ。
ことの起こりは数日前。
危篤で専属のメイドが郷へ帰ることになり、その間代わりのメイドが当てられることになったのだ。で、担当することになったのが、このバカ。
「そのままだと風邪ひいちゃいますよ」
「だったら早くどっか行きなさいよ。ってか、あんたもそうでしょ」
メイドだからって普通一緒にお風呂に入ろうとする? 扉を開けたら素っ裸で待ってるんだもん、びっくりしないほうがおかしいでしょ。まあ、それで逃げるのもどうなのって話もあるけど。
ってなわけで、あたしたちは今タオル一枚で館内を走り回っていた。それにしてもこの廊下どこまで続……あ、やば、タオルが。
「つっかまーえたっ!」
「ぐぇっ」
見事なまでにヘッドロックをかまされ、一瞬息ができなくなった。
あわててタップする。
「さあ、バスルームに戻りましょう」
おいバカ、放せって。
気道が絞まってんのよ、気道が。
ぼんやりしてると思ってたけど、意外に力あるじゃないの──って、感心してる場合じゃな……。
「さあ、今日はわたしがお嬢様を隅々まできれいにしてあげますからね」
そういってあたしを肩に乗っけて、そのままバスルームへ戻っていく。猟師に撃ち取られた小グマか、あたしは。
もう、好きにして。
※ ※ ※
「裸で走り回るからですよ?」
「誰のせいよ、誰──ぐェっほ、ごホっゴッホ!」
翌日、あたしは当然のように風邪をひいて小学校を休んだ。
「あ、知ってます、お嬢様? 風邪は誰かに感染すと、すぐ治るそうですよ?」
「じゃあ、あんたに感染すわ。早くもらってって」
「いいんですか? ではいただきまーす」
そういって躊躇なく唇を重ねてきた。いただきますってあたしは──あ、ダメ、つっこむ元気もないわ……。
もう、好きにして。 了




