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ヒヤシンス  作者: 新々
19/22

もう、好きにして

「待ってくださーい、お嬢様ぁ」

「ああ、もうっ! 追いかけてくんなっつーの!」

 無駄に長い廊下を走りながら、あたしは叫んだ。


 ことの起こりは数日前。

 とくで専属のメイドがくにへ帰ることになり、その間代わりのメイドが当てられることになったのだ。で、担当することになったのが、このバカ。

「そのままだと風邪ひいちゃいますよ」

「だったら早くどっか行きなさいよ。ってか、あんたもそうでしょ」


 メイドだからって普通一緒にお風呂に入ろうとする? 扉を開けたら素っ裸で待ってるんだもん、びっくりしないほうがおかしいでしょ。まあ、それで逃げるのもどうなのって話もあるけど。

 ってなわけで、あたしたちは今タオル一枚で館内を走り回っていた。それにしてもこの廊下どこまで続……あ、やば、タオルが。


「つっかまーえたっ!」

「ぐぇっ」


 見事なまでにヘッドロックをかまされ、一瞬息ができなくなった。

 あわててタップする。

「さあ、バスルームに戻りましょう」

 おいバカ、放せって。

 気道が絞まってんのよ、気道が。

 ぼんやりしてると思ってたけど、意外に力あるじゃないの──って、感心してる場合じゃな……。


「さあ、今日はわたしがお嬢様を隅々まできれいにしてあげますからね」

 そういってあたしを肩に乗っけて、そのままバスルームへ戻っていく。猟師に撃ち取られた小グマか、あたしは。


 もう、好きにして。


    ※    ※    ※


「裸で走り回るからですよ?」

「誰のせいよ、誰──ぐェっほ、ごホっゴッホ!」

 翌日、あたしは当然のように風邪をひいて小学校を休んだ。


「あ、知ってます、お嬢様? 風邪は誰かに感染うつすと、すぐ治るそうですよ?」

「じゃあ、あんたに感染すわ。早くもらってって」

「いいんですか? ではいただきまーす」

 そういって躊躇ちゅうちょなく唇を重ねてきた。いただきますってあたしは──あ、ダメ、つっこむ元気もないわ……。


 もう、好きにして。 了

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