それが答え
「うっわー……つき合ってるって噂、本当だったんだ」
「まあ、火のないところに煙は立たないっていうしね」
非常階段の窓の向こう、人目につかないはずの校舎裏で、先輩たちは抱き合ってキスをしていた。しかも女同士で。
「こういうのを百合っていうそうだよ」
「百合? ってかあんた、いつも見てたわけ?」
まあね、と彼女がいう。
ぼさぼさの髪、丸眼鏡に無表情。
クラスでも目立たない彼女が昼休みになると誰よりも早く教室から出て行くことが気になって、こっそり後をつけてみたら。
まさかこんなところで覗き見してたとはね。
「断っておくけど、見かけたのは偶然だよ」
「何もいってないだろ」
心を見透かされたようで、ドキッとする。
「ねえ、私たちもしてみる?」
「はぁ?」
バカか、と見返したら彼女は相変わらずの無表情で。
「な、なんであんたとしないといけないわけ?」
それにそういうのは好きな人とするもんだろ、といいそうになって慌てて呑み込む。
「もしかしてびびってる? 不良なのに?」
「それ以上いうと殴るけど?」
よくわからないイライラのせいで、よくわからない言葉が滑り出す。
ってか今、不良っていった?
「なら、そっちが選んで。私を殴るかそれとも──」
「な、なんでその二択なんだよ」
「殴るっていったのはそっちでしょ。さあ、選んでよ」
彼女が一歩近づいてくる。
あたしは思わず一歩退いて。
そうしているうちに、壁に追い込まれて。
「そっちがいかないなら、私からいくけど?」
「いくって、ちょっと、待っ──」
迫る彼女に、反射的に目を閉じた途端。
なぜか、ぎゅっと抱きしめられた。
瞼を開けると彼女が笑っていった。
「キスする、とはいってないよ」
「な──ッ!」
有限実行しようと動かした手は空を切り、あたしに見えたのは階段を駆け下りる彼女の後ろ姿だけだった。
くっそ。マジでムカつく。
なに、あいつ。本当──。
「……笑ったら、ちょっとかわいいじゃん」
ってか百合ってなんだよ、百合って。 了




