正夢は放課後に
「なんだ、そんなこと?」
「そ、そんなことって……」
薄らと顔を赤くしながら、彼女がごにょごにと言葉を濁す。
今日一日なーんか避けられてるな、と思って放課後みんなが帰ったタイミングで問いつめたら、曰く昨夜に私とキスする夢を見たらしかった。
「っつーか、キスの夢ぐらいでそんなに動揺するとか、見かけによらずなかなか乙女じゃん」
「うっさいな。ってか見た目は関係だろ」
きっと彼女が私を睨む。
茶髪に薄い眉、着崩した制服──と他の人ならビビッてしまうだろう外見は、私にとってはむしろかわいい要素でしかなく。
「正夢にしてみる?」
「はぁ?」
「だから、キス。夢って願望が現れるってよくいうじゃん? 私としたいんでしょ?」
「バカ?」
心底バカにした顔をされ、イラッとくる。
「もしかして、怖いの?」
「別に怖くないし」
「あっそ。じゃあいいよね、しても」
彼女の膝の上に乗り上げた勢いで、ぐっと顔を近づけて。
なにかをいいかけた彼女の唇を、私のそれでそっと塞いで。
「どうだった、私とのキスは?」
「……よゆーなのが、なんかムカつく」
そういって今度は彼女が迫ってきた。
そんな風にしてなんどかキスをした後で、バイトの時間だからと教室を去っていった彼女の背中を見送ったところで。
限界がきた。
うっわぁああああーーーーーっ!!
キスしちゃったぁああーーーっ!!
彼女の席で、膝を抱えて丸くなる。
っつーか心臓が破裂しそうなんですけど?
乙女なのはどっちだよ、本当に。もうっ!
「……余裕なわけないじゃん、バーカ」
いまだに熱が残っている唇に触れながら、私は彼女のことをぼんやり想った。
なんだか夢でも見ているような気分だった。 了




