お昼休みは夢の中
「はぁ……本当、きれい」
お昼休み、いつものように校舎の影からそっと様子を窺うと、いつも通り先生は中庭のベンチに座って本を読んでいた。
潤った長い髪。二重瞼を支える伸びた睫毛と、切れ長の瞳。鼻筋から顎まで凛と伸びた曲線は、しなやかさと色っぽさを持って身体へと続き、足の先できゅっと引き締まっている。
ひとことでいえば大人だった。
対して私といえば寸胴の、可もなく不可もない顔立ち。これでもいろいろ努力してるほうだけど、やっぱり限界はあって。
でも高校を卒業した先輩や親戚が急に大人っぽくなった例はたくさん見てきたから、きっと私も──なんてことは多少なりとも思っている。
早く大人になりたい。
そしたらきっと見違えるようにきれいになって、先生も私のことを見てくれるはず。
だって先生の教えてくれる国語の成績が良くっても、それだけじゃあ勉強のできる生徒の中のひとりにしかなれないし、子供の私じゃつり合わないから。
本当、早く時間が進んでくれないかな。
って、うわ、先生がこっち見た。
え、待って、なんで手振りながらこっちに向かって来てんの?
「なにしてるの?」
「み、見てました」
「見てた? あ、猫」
その時初めて、私はノラ猫が足もとで寝ていることに気がついた。
そうです猫ですといいわけしながら、しゃがんでわしゃわしゃとなでる。
なにこれ。ワケワカンナイ。
「そんなにしたら起きちゃうわよ」
となりで膝を折り、先生が私の手首をやんわりと握る。
せ、先生が私に触っ──……。
あー、なにこれ。夢でも見てるの、私?
猫はいいわね、なんてことを先生はぼやいていたけど、正直耳になんて入らなくて。
このまま時間が止まって。
夢なら覚めないで。
ぐうぐう眠る猫を見つめる、というよりは睨むようにして、私は強く強くそう願った。 了




