吐息を吹き込んで
「なにしてるの?」
「くーきいれてるの」
真剣な顔で、ひゅーひゅーと口から息を吸う。
ひと回り齢の離れた五歳の妹は時々よくわからないことをする。
だいたいが絵本かなにかの影響を受けてそれの真似をしてるだけなのだけど、どこかズレているというか、発想がいつも斜め上なのだ。聞けば今回は風船のつもりらしい。
「どうして風船なの?」
「そしたらおっぱいがおーきくなるかなって」
「おっぱい大きくなりたいの?」
「おねーちゃんみたいになりたいの」
「わたし?」
いや、まあたしかにそこそこはあるけど。
「ふーせんみたいにくーきいれたら、あたちもおーきくなるかなって。だから」
目を見開いて、またひゅーひゅー息を吸う。
本当によくわからない。
「おっぱいは風船じゃないから大きくならないよ」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
急に泣きそうな顔になってわたしを見る。
どうしたらって、そんなの思春期を迎えるまで待てとしかいいようがない。わたしだって勝手に大きくなったわけだし。
なんてことは、このいじらしい顔を見てしまっては軽々しく口にできなくて。
「おっぱい大きくなっても、いいことないよ」
「あ、わかった。ねえ、おねーちゃんがふいて。あたちに。そしたらおーきくなるよね?」
「ちゃんと聞いてた、お姉ちゃんの話?」
でも、妹は吹いて吹いてと口をすぼめて迫ってきた。どうやら本気で大きくなりたいようだ。
かわいいなあ、と軽く唇にちゅってしたら、両手が首の後ろに回されてちょっとどきりとする。
「ねえ、おねーちゃん、もっと、もっとー」
そういって今度は妹からちゅーをしてきた。
それから妹はことあるごとに風船の真似をするようになり、それは十年後、大きくする必要がなくなった今でも続いていた。
「ねえ、お姉ちゃん……もっと、もっとぉ」
そろそろこっちの心臓が破裂しそうだ。 了




