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ヒヤシンス  作者: 新々
14/22

魔女と空と、

「うぅ……やっぱり怖いよ」

「あきれた。練習につき合ってっていったの、あんたでしょ?」

「そ、そうだけど、でも……」

「高所恐怖症の魔女なんて聞いたことないわよ」


 私はなにもいえず、ほうきの上にまたがったまま座り込んでいた。満月の夜ならあるいは、と思ったけど、やっぱり怖いものは怖くて。

「あーもー、じれったい」

「え? ちょっ、わっ、わわわっ!」

 手をつかまれたと思った次の瞬間、私は彼女の箒に乗って空を飛んでいた。


「ひぃいいい、た、高いいいっ!」


 彼女の腰にぎゅっとしがみつく。

 そんな私のことなどお構いなしに、彼女はローブをはためかせながらぐんぐん空へと近づいていく。


 少し前、不注意で崖から落ちて以来、私は自分の身長より高く飛ぶことが苦手になってしまった。早く直したいとは思っていたけど、だからってこんな急にはさすがに──。


「あんたがヘタれてるから、ほら、見なさい。もう夜が明けちゃうじゃないの」

 彼女がふっと中空に止まる。

 来るわよ、と細い手が指す先を覗くと、山の頂きが白く輝いていた。気づけば夜はすっかり色を失って、温かい光があたりを包んでいた。


 それは、初めて見る夜明けだった。


「きれい……」

「でしょ? こんな景色、魔女あたしたちじゃないと見れないわ。ほら、森の目覚めよ」

 一瞬後、足もとで一斉に輝き出した鮮緑に私は目を奪われた。それはつま先で触れられそうなほど、不思議とすぐ近くに感じて。

「ねえ、もうちょっとだけがんばってみない?」

「……うん、がんばってみる」

 ありがと、といって抱きしめると、彼女がビクッと反応した。

 それに──。


「どうしたの? 顔、赤いよ?」

「……太陽のせいでしょ? ほら、戻るわよ」


 ゆっくりと空が遠ざかっていく。

 視界に広がる青色を見ながら、早く自分の箒で飛びたいな──と、私は素直にそう思った。 了

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