重なる音
ふっと彼女と目が合う。
でも、すぐにどちらからともなく避けて。
「…………」
「…………」
ベッドの上に並んで腰かけたまま、私たちはさっきからずっとこんな調子だった。
仕事のない週末、ひさしぶりのデートの後で、私はそのまま彼女の家に上がり込んでいた。もちろん、初めから泊まる予定ではいたし、だからそういうことをするつもりでもいたのだけど。
つき合って二ヶ月。
実は彼女とは、今日が初めてだった。
それが早いのか遅いのかはわからないけど、私にとっては何もかもが初めてだったし、だから前々から心の準備はしていたつもりだった。
でもいざその時になると、かえって緊張してしまって――というより、なぜか少しだけ怖くて。
「そろそろ寝よっか」
ふっと彼女の手が私の指先に触れた瞬間、覚えず身体がビクッと跳ねてしまった。
「あ、あのっ」
心臓がバクバクとうるさく胸を打つ。
「もしかして、緊張してる?」
「あ……うん、ごめん」
「なんで謝るの」
ちょっとだけ笑って、彼女がぎゅっと優しく抱きしめてくる。
でも、今度は不思議と飛び上がるようなことはなくて。
「同じだよ、わたしも。わかる?」
それは女性らしい柔らかさの向こうから、温もりと一緒に私の腕にドクドクと伝わってきて。
脈打つ音が次第に共鳴していって。
「今日はもう、このままでいよっか」
そっと耳もとで囁く彼女に、私は首だけを廻らしてキスをした。
「…………」
「…………」
不思議と怖さはもうなかった。
もちろん、まったくというわけじゃなかったけど、でも、それ以上に溶けていくような安心感が身体中に広がって。
その安心感が、もっと欲しくて。
そのままベッドに転がって、お互いの髪が絡み合うほど求め合いながら、愛し合いながら。
私たちは、初めてふたりの夜を過ごした。 了




