もうひとつの勇気
放課後、親友の席に座って本人の帰りを待っていたら、以外にも待ち人はすぐに帰ってきた。
「ただいま」
退こうとした私を制して、ポニーテールを躍らせながら彼女が机に飛び乗る。
「それで、なんだったの?」
「告白だった」
男の先輩から呼び出されていたから、まさかとは思っていたけど。
「で、返事はどうしたの?」
「断ってきたよ」
あっさりしてるなあ、なんて思いながら、でもどこかホッとしている自分がいて。
つい息が漏れてしまいそうになったのを、すんでのところで呑み込む。
「なんていってきたの?」
「他に好きな人がいるから、みたいな感じで」
「無難だね」
「まあね。でも本当のことだし」
「……え?」
「断るのもけっこう勇気いるよね」
よっ、と声をかけて机から飛び降りると、脇にかかっていた鞄を手に取った。
「待たせちゃってごめんね、帰ろっか」
「ちょっと待って」
とっさに手をつかんで、彼女を引きとめる。
「さっきの話、本当なの?」
「さっき? ああ、好きな人のこと?」
「誰なの、それ。私の知ってる人?」
思わずつめ寄り、妙に焦ってる自分に気づいてはっとする。
ごめん、といって放しかけた手は、でも逆にぎゅっと優しく握り返されて。
「……教えてあげてもいいけど、今日に限って変に勇気とか出さないでよ? ヘタレがあんたのとりえなんだから」
「なんの話? ってかヘタレってひどくない?」
「だってそうでしょ?」
と楽しげに笑う親友の顔は、今まで見てきた彼女の笑顔の中で、一番かわいく映って。
なぜか、胸がドキドキして。
彼女の好きな人のことが、なんだか少し恨めしく思えてしまった。 了




