恋星
「ねえ、今度の休み星間飛行しにいかない? 船は私が出すから」
研究所のプロジェクトが一段落した折り、休憩室で話していたら、彼女がふと思い出したようにそう誘ってきた。
「いいよ。船なんて持ってたんだ?」
「前に奮発して買っちゃった。中古だけどね」
その船はひとり用の小さなものだった。
年期の入った外観からは想像できないほど、船内は彼女の好きなもので満ち溢れていて。
「相変わらずだね」
「いいじゃない、趣味だもの」
目を細めて子供っぽく唇を尖らせる仕草も、相変わらずだった。
「あたしはかわいいと思うよ。うちのプロジェクトメンバーはどう感じるかわかんないけどね」
この星の研究所に地球人種はあたしたちだけで、だから初めは価値観の相違にいろいろと苦労した。スクール時代にも異星人種との交流はあったけど、外の世界はその比じゃなくて。
船はいつの間にか宇宙へ抜けていて、窓ガラスの向こうにはザラメを撒き散らしたように、数多の星が淡く煌めいていた。
「ねえ、知ってる? 新しい恋が生まれた時、新しい星も生まれるんだって」
無数の小さな恋を見つめながら、彼女がいう。
「聞いたことある。リリアンの星に伝わる古い詩だったっけ?」
「そう。メンバーのひとりがそこの出身でね。そういえば、見にいきたい星があるっていってたけど?」
「そうだった。ちょっと座標入力させて」
あたしは時代遅れのキーボードに触れながら、まいったな、と胸のうちで苦笑した。
その星は研究のかたわらこっそり探し続けて、最近になってようやく見つけたものだった。
その古い詩のことは知っていた。探そうと思い立ったのも、実はそれが契機で。調べてみれば、星齢もぴたりと一致していてびっくりした。
リリアンの人とは、気が合うのかもしれない。
だってその星は、幼い頃彼女と出逢った時に生まれた――。
あたしの初めての恋だったから。




