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ヒヤシンス  作者: 新々
11/22

恋星

「ねえ、今度の休み星間飛行ドライブしにいかない? 船は私が出すから」


 研究所のプロジェクトが一段落した折り、休憩室で話していたら、彼女がふと思い出したようにそう誘ってきた。

「いいよ。船なんて持ってたんだ?」

「前に奮発して買っちゃった。中古だけどね」


 その船はひとり用の小さなものだった。

 年期の入った外観からは想像できないほど、船内は彼女の好きなもので満ち溢れていて。

「相変わらずだね」

「いいじゃない、趣味だもの」

 目を細めて子供っぽく唇を尖らせる仕草も、相変わらずだった。

「あたしはかわいいと思うよ。うちのプロジェクトメンバーはどう感じるかわかんないけどね」


 この星の研究所に地球人種はあたしたちだけで、だから初めは価値観の相違にいろいろと苦労した。スクール時代にも異星人種との交流はあったけど、外の世界はその比じゃなくて。


 船はいつの間にか宇宙うみへ抜けていて、窓ガラスの向こうにはザラメを撒き散らしたように、数多あまたの星が淡くきらめいていた。


「ねえ、知ってる? 新しい恋が生まれた時、新しい星も生まれるんだって」


 無数の小さな恋を見つめながら、彼女がいう。

「聞いたことある。リリアンの星に伝わる古い詩だったっけ?」

「そう。メンバーのひとりがそこの出身でね。そういえば、見にいきたい星があるっていってたけど?」

「そうだった。ちょっと座標入力させて」


 あたしは時代遅れのキーボードに触れながら、まいったな、と胸のうちで苦笑した。

 その星は研究のかたわらこっそり探し続けて、最近になってようやく見つけたものだった。

 その古い詩のことは知っていた。探そうと思い立ったのも、実はそれが契機で。調べてみれば、星齢もぴたりと一致していてびっくりした。

 リリアンの人とは、気が合うのかもしれない。


 だってその星は、幼い頃彼女と出逢った時に生まれた――。

 あたしの初めての恋だったから。

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