太陽の君
彼女はいつも私の前を歩いている。
年も上だし、身長だって高いし、ひとり暮らしをして、夢を持って生きている。
そんな彼女がうらやましくて。
背中ばかり見ていることが悔しくて。
「なにしてんの?」
突然、彼女が振り返る。
夕陽に透けた髪が金色に輝いて、まだ茜色の空に、それは流れ星のような美しい線をいくつも描いていた。
「影踏んでた。影踏み」
私は足もとを指して、少し得意気にいった。
「だから動いちゃダメ」
「なにバカなこといってんの」
あきれたようにいって、彼女はまた歩き出した。背中を向けて。私の前を。
そうやっていつも簡単に歩いていってしまう。
まるで向こう側に沈もうとしている太陽のように、追いつけない速さで。
私はどうがんばたって同い年にはなれないのに、身長だってもう伸びないのに、大学受験は来年なのに、やりたいことだってまだ見つかってないのに。
「どうしたの?」
私がついてこないことに気づいた彼女が、駆け寄ってくる。
伸びた影がひと足先に迫ってきたところを、また強く踏んで。
「動いちゃダメ」
「さっきからなに?」
そんなの私だってわかんない。
でも、なんかすごく悔しくて。
あきれたように溜息をついた彼女は、その影で私を呑み込むようにして近づいて。
「あたしだって寂しかったんだから」
ぎゅっと強く、私の手を握って。
「今くらいは一緒にいてよ。ね?」
「……うん」
ああ、そっか。私、悔しいんじゃなくて寂しかったんだ。
彼女と一緒で。
そう、一緒で。
太陽はいつもひとりぼっちで沈んでいくということを、私はその時初めて知ったのだった。




