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ヒヤシンス  作者: 新々
10/22

太陽の君

 彼女はいつも私の前を歩いている。

 年も上だし、身長だって高いし、ひとり暮らしをして、夢を持って生きている。

 そんな彼女がうらやましくて。

 背中ばかり見ていることが悔しくて。


「なにしてんの?」


 突然、彼女が振り返る。

 夕陽に透けた髪が金色に輝いて、まだ茜色の空に、それは流れ星のような美しい線をいくつも描いていた。


「影踏んでた。影踏み」

 私は足もとを指して、少し得意気にいった。

「だから動いちゃダメ」

「なにバカなこといってんの」

 あきれたようにいって、彼女はまた歩き出した。背中を向けて。私の前を。


 そうやっていつも簡単に歩いていってしまう。

 まるで向こう側に沈もうとしている太陽のように、追いつけない速さで。

 私はどうがんばたって同い年にはなれないのに、身長だってもう伸びないのに、大学受験は来年なのに、やりたいことだってまだ見つかってないのに。


「どうしたの?」


 私がついてこないことに気づいた彼女が、駆け寄ってくる。

 伸びた影がひと足先に迫ってきたところを、また強く踏んで。

「動いちゃダメ」

「さっきからなに?」


 そんなの私だってわかんない。

 でも、なんかすごく悔しくて。


 あきれたように溜息をついた彼女は、その影で私を呑み込むようにして近づいて。

「あたしだって寂しかったんだから」

 ぎゅっと強く、私の手を握って。

「今くらいは一緒にいてよ。ね?」

「……うん」


 ああ、そっか。私、悔しいんじゃなくて寂しかったんだ。

 彼女と一緒で。

 そう、一緒で。


 太陽はいつもひとりぼっちで沈んでいくということを、私はその時初めて知ったのだった。

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