おふとんの国の王様
もしかみさまが あらわれて
「きみを世界の支配者にしてやろう」と いわれても
ぼくは けっこうです
ぼくは おふとんの国の おうさまがいい
ああ ぼく 意識低い系
ほわっとぼくの からだのかたちに あわせてくれる おふとん
おかあさんより グーグルアドより ぼくをよく知っています
手でにぎって ほふほふすると
ほふほふ ほふほふ
おふとん おふとん
えらそうにきこえる言葉を こねくりまわして
下くちびるをつきだして むねをはっている あなた
あなたに ぼくのおふとんの なにが わかるものですか
あなたたちだれも あのとき ぼくに 目もくれなかった
めんどうなことに かかわりたくないと さっさとにげてったじゃ ないですか
ぼくをまもってくれたのは おふとんだけ
ぼくと せかいのあいだには こえられない かべがあります
それでおふとんは ぼくが かべにぶつかって けがしないように
ホフホフと ぼくを まもってくれて いるのです
あなたたちなんかより ずっとずっと やさしいのです
おふとんは どうにかぼくの 心をなだめ 勇気づけ
なんとかこの場所と 折り合いをつけさせ
とりあえず やっていけるように してくれました
おふとんは おそるべき柔軟さで ぼくを まもります
でも それは けっして
よくある 汚らわしい柔軟さ なんかとは ちがうのです
おふとんは ぼくのかかえる 混沌ごと
ぼくを くるりと つつみます
おふとんにくるまれて ぼくは とけていきます
だんだん じぶんの 輪郭も わからなくなって
ぼくは じぶんが じぶんなのか おふとんなのかも わからなく なります
そして ぼくは ネイビーブルーのなかに ゆっくり ゆっくり
しずんでゆけるのです
ああ 死ぬって こんなかんじなら いいな と思いながら
ぼくは ほわっとやわらかく くるまれて
あつくもない さむくもない おふとんの国を
ずぅっと ただようのです
わかっています ぼくにだって
明日にはちゃんと おふとんから 出ます そして
螺旋階段を また ぐるぐると のぼり続けるのです
わかっています だから いいでしょう
今日は ぼく くるまって ホフホフして いたいのです
ただ ぼくと 世間様とのあいだに
おふとんが 入ってくれているほうが なにかと うまくいくのです