ギルドでの一幕1
今回と次回は大作は不在です
ギルドマスターが大作の家を訪れる前日の事
ギルドの奥にあるとある一室。
そこは魔道具によって張り巡らせた結界が十重二十重に重なっており、許可のない者が近づくのを拒むかのような警戒体制であった。
その理由は、二つ
一つはギルドマスターの部屋であり、王都の冒険者の資料から依頼の資料、果ては王族、貴族の機密事項まで扱っているため、賊の侵入の許されない部屋だという事。
もう一つは事務机の下が隠し扉になり、そこから一直線に、ある貴族の屋敷へと繋がっているためだ。
ギルドマスターの本職は領地経営。
ギルドでは管理運営は受付嬢に任せ、自分の仕事は書類仕事と、重要案件の決済のみ。
更に、その仕事すらほったらかしで自らの領地に引きこもることがしょっちゅうなので、受付嬢に
「もうろくマスター」と陰口を言われるほどだ。
だが、やるときにはやるのでマスターの交代が出来ない。彼ほどギルドの事に精通している者がいないと言われるほど、早く、正確な仕事な為、幾ら耄碌と言われようが交代が出来ないのが現状だ。
そして、今その老人と、受付嬢リーゼが一人の冒険者の事で頭を抱えているのだが。
「のうリーゼ。この報告書の内容は本当か?俄かに信じがたいのだが。」
「信じられないのも無理ありませんが、事実です。現に目の前でパソコンなる物質から聞き及んだ効果と異なる効果の霊薬エリクサーを作って見せました。そのおかげで王子様が回復されたので、間違いございません。他にも女性と男性を一人ずつ召喚されておりました。」
「報告書にもそうあるが、伝承の通りなのか?それ以外にも信じられんことが書いてあるのだが?」
「はい、その通りです。私からすれば、寧ろ知力の方が脅威だと捉えます。味方のうちは国の発展に貢献して貰えますが、対応を間違えればすぐに滅ぼされてしまう事でしょう。」
「・・・どういうことじゃ?」
「・・・この報告書を見てください。」
そしてリーゼが示す内容で、疑問の顔が一瞬にして青ざめた顔に代わる。
バン!
「これは、本当か!こんな性能の武器を流通させられては何時一般の国民が被害を受けるか分からんではないか!それに、このケイタイという魔道具の性能についても桁が外れておる。しかも最初の試作品はタダで貸し出すじゃと?何が狙いじゃ。」
「それなんですが、既に相手は使われているだけで利益があると言ってるんです。お金は言わば序だという様に。そして、これからも色々と開発するだろうから、一々金を取っていては一割位という金額も馬鹿にならないと。」
その言葉を聞いたマスターはさらに頭を抱え
「よし、ワシが直接聞いて来よう。場所は何処だ?」
「町の外れに研究所兼住居を建てたと言ってました。」
「?そんな所にそんな場所あったか?というか人が住めるのか。」
「さあ?ですが、あの方の召喚する護衛もいますし。魔道具も強力なので、逆に人が来ないほうが煩わされなくていいという考えでは?卸すのもギルドがありますし。」
「・・・なるほど。その為のギルドか。なら、一人の方が良いな。ワシが一人で行こう。留守を頼む。」
「解りました。ボケて変なところに行かないようにしてくださいね?」
「っ!そこまでボケとらんわい!」
そう怒鳴りながらギルド入り口まで行くと。
「おい、それ何処だ。直ぐ準備しねえとヤバいぞ。」
「いや、それより、王城に連絡した方がよくないか?距離によっては住民の避難と被るぞ。」
などと騒々しいので一旦
「やかましい!何事じゃ!依頼の受付ならもう遅いから明日にせい!」
と一喝するが
「あ、マスター。それ所じゃねえよ。ついさっき依頼から戻ったCランクチームが町の外れ凡そ10キロ位の地点で魔物の集団が野営の準備をしてるのを見かけたらしいんだ。あの距離なら明日の昼には王都まで来るかもしれねえから、どうするかってんで今相談してたんだ。」
「・・・何じゃとー?!それを早う言わんか!・・・くぅ・・・。リーゼ!おるか?」
「はい、ここに。」
「・・おおー、ビックリした。いきなり現れるな心臓に悪い。話は聞いたな?ワシは今から王族への避難通知を書くから、顔が知られているお主が届けてくれ。例の魔道具もな?ワシも知られてはいるが行くと面倒事の方が多いからの。その際、報告に来た冒険者も連れてな。」
そして、再度冒険者に
「お主らは国民の混乱を避けるために、なるべく平常通りに行動せい。あと、サーナに、コリスはダイサクじゃったか?彼の者から借りた魔道具をBランク以上のチームの泊まっている宿に届けに行け。その際に今の状況報告もな。以上じゃ。どうなるかは分からんから皆臨機応変に対処しろ。これはギルドの恩恵を受けている者の義務じゃ。・・・散れ!」
マスターの言葉に、その場にいた全員はこう思った。
(まともな判断できたんだ・・・)
と。
そして、王城
王城の広間で待たされているリーゼと冒険者の元にカイルが来て
「待たせたな。で?用件は。」
そして、魔物の事と魔道具の事を説明する。
「それはまた面倒な・・・。けど、この魔道具は確かに便利だな。今度ジェイドと一緒に俺も貰いに行ってみようか。魔物に関しては一応この書状と一緒に王族にそれとなく報告しとく。あの人たちなら聡明で優秀だから、判断を間違う事はまずない筈だ。一応証人としてアンタにも来てもらう。」
「解った。」
「解りました。それではこれで。」
「ああ。」
一夜明け、Bランクのチームが3チーム揃ったのだが・・・。
「物見の報告はどうなっておる?」
「それが・・・魔物どころか人影さえ見当たらないと・・・。」
「・・・?どういう事じゃ。報告の距離なら、団体での行動にしてもそろそろ自己強化の魔法に慣れた物見なら見える距離じゃろ。」
そこで、何か気付いた様にリーゼが
「あのー?もしかしたらですが。」
「なんじゃ?リーゼ。」
「報告の方角と大作さんが言っていた住居の方角が偶然一致するんですよ・・・。これは偶然なのでしょうか?」
「・・・・。」
「一応確認しようと思ったのですが。大作さん、肝心の自分の処の関係者の魔力の記憶を忘れている様で、直接確認に行かないといけないようで・・・。」
その言葉に頭を抱えながら、仕方ないと思いながら
「解った。肝心な事が抜けているのは完璧ではないという事で、安心するべきか・・・。とにかく、ワシが確認に行ってくる。皆はもしもの為に警戒態勢を持続させておいてくれ。・・・では行ってくる。」