閑話・ランスロットの冒険1
時系列的に大作たちが竜谷に行っている時の話(何時入れようか迷ってたのですが早めに入れました。)
私は今、マスターに依頼され、Cランク冒険者のパーティーと護衛依頼の内容を詰めているのだが・・・。
ぬるい!ぬる過ぎる!!こんな程度の布陣では仮にオーガ(マスターの知識より抜粋)が一体でも現れれば、たちまち私以外全滅してしまう。これは注意をせねばならん。
「ちょっといいか?これほど帝国領に近づくのにこの程度の人数で足りるのか?それに、この辺りには最近オーガの目撃情報もあったはずだぞ?」
「ああ、それは俺らも見たが既に倒されているらしいから問題ないだろう。帝国領の近くだって事にしても、危険なのは内乱が起きてる中央付近であって、国境付近はそれぞれの貴族連中が治めてるから比較的安全だ。もし、ヤバそうな奴らが来たときは警備兵が狼煙を上げるから、殆どの場合は逃げられる。」
・・・なんだと?まさか、それで自分たちだけ逃げようという事か。これがCランクの考え方とはどうなっているのだ。後の問題は依頼主だな。どんな人物かによって守るべき対象か、放っておいても仕方ない者かを見極めよう。
そう決意したとき、男たちがゆっくりと立ち上がって私の方をみてそろそろだと促した。
そして、王都の門前でしばし待つと、黒いコートにフードを被った167.8位の人物が寄ってきた。
それから私たちの人数を確認し、頭を傾げ質問してきた。
「すいません。私が依頼人です。この度は、帝国領までの護衛の依頼を受けて頂き、ありがとうございます。まだ、フードを取ることが出来ませんがご容赦ください。なにぶんお忍びですので、顔が割れたら後々に影響しますので。・・・それと、お話の人数より少し多いですが、何処かから雇われましたか?報酬は余裕があるので、一向に構いませんが・・・。」
依頼人が聞いてきたので、漸く私の他にも急遽、護衛として入った者がいる事が分かった。
「それについては俺が説明する。まず、そこにいるちっこい奴がエルド。こいつは風の精霊魔法師らしく、結構遠くの情報も得られるらしいから、スカウトしてきた。んで、そっちの兄ちゃんはさっきスカウトした奴だ。旅の途中だってんで相当の実力があるとおもう。冒険者登録は旅の事情でやらないらしいが報酬を渡せば問題ないはずだ。」
「解りました。私に関してはここではまだ、依頼主の女性というだけにしておきます。王都が見えなくなった頃にフードを外して自己紹介しますね。・・・では、行きましょうか。」
女性が納得した後そういうと、門をでて外れた所にあった馬車に乗り(傍で護るための要員のみ。後は貸し出しの馬)帝都への旅路を急かす様に出発を促した。
そして、辺りに人の気配が無くなった所で全員馬車を降り、改めて依頼主が自己紹介をするためにコートを脱いだ。
そして、その姿を見た冒険者たちは一様に驚いた顔をしていた。
私も(恐らくは皆とは別の理由だが)驚いた。思った以上に若いが者だ。少女と言って良いだろう。このような少女が単身で自分の住むところを離れた理由は気になるが。
私のそんな感想とは別の感想を抱いたらしい冒険者が
「一人旅の割には別嬪だな、嬢ちゃん。帝国なんかに行かずにこの国に居た方が長生きできるんじゃねーか?俺らを雇う位の金持ちらしいし、いざとなればどんな店でも看板娘に成れるくらいの上玉だぜ?」
「そうはいきません。私が戻らなければ内乱が終わりませんし、場合によれば反乱軍と正規軍が共倒れになって、周辺国からの良い標的にされます。私はこう見えても重要人物ですので。」
「へー?案外どちらかの勢力のトップの一人娘ってオチかい?けど、それなら目的地が国境の砦ってのが
不自然だがな。」
「それについては、秘密です。誰の耳があるか解りませんから。確か、そこの人は精霊魔法師と言ってたでしょう?」
その問いに頷くエルド
「精霊魔法師なら場合にも依りますが、ここから帝都の中心位の距離なら精霊を飛ばせる事も出来る筈ですから。・・・あなたもですか?」
と、私が頷いているのを見て気付いたらしくじょせ・・・、そういえば名前はまだだった。
「とりあえず、名前だけでも教えて貰えますか?女性とだけ呼ぶのは気分が悪いでしょう?」
「そうでしたね。私はエリシスと言います。詳しくは言えませんが帝国の重要人物です。」
「では私も。私の名はランスロット。故あって、諸国を旅している者です。この大陸に来て初めての者たちをギルドまで送った所をこちらの冒険者の方たちに誘われまして、護衛を引き受けた次第です。あらかたの魔法は習得しているので護衛の方は大船に乗ったつもりでいてください。」
私の紹介を聞いたエリシスは目を鋭くして私を見てきた。
「へー?失礼ですが、得意属性は幾つありますか?」
「?私は攻撃特化なので、攻撃に関する物はある程度習得してますが?」
「・・・では、試にそこにある木を薪にするために均等な長さにカットしてみてくれますか?」
私はエリシスの質問に首を傾げながらも言われたとおりにカットすべく風魔法で長さ30センチ角太さ5センチに成るように素早く指だけを動かして木を切って行く。
数秒後、山積みにされた薪が出来上がったのでどうするか聞く事にした。
「とりあえず切りましたが・・・。こんなところでは置き場もありませんし、どうしますか?使わないならブラックホールの中に取り込んでおきますが。」
私の質問に、固まっていたエリシスが再起動して聞いてきた。
「すみません、今何をしたのですか?早すぎて分かりませんでした。」
「?ただ、風を鋭い刃状にして木を切っただけですが。これ位普通にできるでしょう?」
「いえ、切るだけならそうなんですが、その速さが普通じゃないんです。通常、あの太さの木ならただ切り倒すだけでも十からの刃を叩き込まなければ切り倒せません・・・。あんな指だけの操作で素早くなんて熟錬の魔法士でないとむりです。それに、まだ何かできそうですし。」
「ああ、そういえば薪の処遇はどうしますか?そろそろ昼ごろですし、使うなら置いときますが。
「ああ、獣避けに成るからその薪を使って飯にしよう。嬢ちゃんは料理できるかい?」
言われたエリシスは僅かに頬を染めると
「いえ・・。申し訳ありませんができません。材料はありますから、どなたか作れますか?」
「なら、俺が作るぜ。こう見えて肉料理にはちょっとうるさいから期待してろ。とりあえず、材料だけ見せてくれ。それを見てメニューを決める。」
「解かりました。こっちです。」
「なら私は夕食用にそこいらの魔物を適当に狩ってきますよ。熊や狼の肉ならどれでも一緒でしょう?」
「熊?狼?知らない名前ですけど、魔物の肉ならどれも同じようなものですから構いませんよ?そんなに保存できませんから1.2頭でいいです。気を付けてくださいね?危なかったら構いませんから。」
そういって、エリシスは冒険者の男を連れて馬車の裏の方に行った。
さて、他の冒険者もそれぞれ、昼食の準備をしてるようだから、近くにある魔物だけ狩に行きましょうか。
そういいながら私は一キロほど先にいるジャイアントベアの群れに火の魔法を浴びせながら近づいて行き、たどり着いた頃にはこんがりと程よく焼けた肉が転がっていた。
4・5・6・・・十頭ですか。とりあえず一頭だけ残して後はブラックホールに放り込みますか。大作様たちの方で入用になる可能性もありますし。
そう結論付けた後、ブラックホールに魔素の抜けきった肉を放り込むと、一頭分の肉だけを地属性魔法と無属性魔法の混合魔法魔道台車(地の派生にて金属のパイプにした取っ手と薄い板状の鉄板を取り付け、無属性の重力魔法で浮くほどに軽くした物)に乗せて元のキャンプ地へと戻った。
「おおー!エライ凄い獲物がいたんだな。良く一人で狩れたもんだ。やはりあんた只もんじゃねーな。そのジャイアントベアは通常一人で狩るにはBランクの上位の実力がいる魔物だぜ。」
と、帰ってきたそうそう褒められたが。
・・・・こんな程度の魔物にも苦労するのでは、冒険者も大したものは居ないのではないだろうか?まー、大作様にとってのギルドは情報収集の場でしかないからその事だけを活用すればいいのだが。
「では、食事が出来てるようなので、そろそろ食べましょうか。エリシスさん、後で適当に捌いて貰って管理をよろしく頼みます。」
「解りました。ではいただきましょう。」
「では、これより移動を開始します。どうやらランスロットさんが一番の実力者のようなので、私の傍での護衛を頼みます。他の人は馬車を中心に前後左右を二人ずつ、馬車の横で並走してエルドさんに周囲の警戒をして貰います。・・・では、行きましょうか。」
エリシスがそういって行動を開始した。
「チッ!またか、次は何頭だって?」
「約十頭です。・・・ヤバイ、エリシスさん逃げましょう。これより先2キロの地点にオーガの群れ、数3です。我々では対処しきれません。」
「・・・とはいっても、こう囲まれていてはヘタに逃げる事も出来ませんよ・・・。」
「・・・おい、早く結論出してくれ。こいつ等だけでもきつ・・・グハッ!」
ドカッ! ヒヒーーーーーン!
いかん! このままでは馬車ごとダメになる。私も出ないと拙い。
「エリシスさん。少しここでジッとしていてください。私が外にでて加勢します。」
「このドア越しに何とかなりませんか?自慢ではありませんが、私は自前の道具が無ければ身を護ることも出来ないのです。」
「そうは言っても・・・」
「おい、もうだめだ!逃げる「ガルル・・・」・・ガハッ!」
もう、私とエリシスさんだけですね。エルドさんもいつの間にか殺されてますし。
「仕方ない…少しの間息苦しくなりますが我慢してくださいね。」
「?解りました。」
エリシスさんにそういったあと、私は馬車の天幕の上を飛ばして屋根に上り、魔物が視界に全てはいる角度に向くと、まず魔物を風で一か所に固めるように操作した後、辺りの酸素(魔素)を魔物に集中させ、火魔法で一気に焼き尽くした。・・・物凄く焦げ臭い。恐らく近くで死んだ冒険者も巻き込まれたのだろう。うっすらと地面に焦げ目が付いている。まー、火葬にしたと思えばいいだろう。ギルドカードを回収できないのが痛いが。エリシスさんに言っておきますか。
「終わりましたが、エリシスさん。彼らの遺体が回収不可能にまで溶けたので完了報告の際に証言をお願いできますか?私が殺したのではないので、疑われない様に。」
「それは構いませんが、どのような・・・・ヴッーーーーー!」
オェーーーー!
「・・・お見苦しい所をお見せしました。出来れば忘れてください。・・・・それにしても、ここまで来て、護衛一人になってしまってもきついのですが。このまま行けますか?勿論、昼食の時に見ていたので食事は私が出来ますが。」
「私は構いませんよ?引き返すのも面倒ですし。このまま行きましょう。」
「解りました。引き続きお願いします。」
そうして、二人旅がスタートした。
まだ、冒険は続きます。