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08 金色の場所、〝狂人〟との遭遇。5


 襲いかかる狂気に、思わず――といった形で両手を突き出すマヒト。

 開きかけた口はきっと、魔法を唱えるため。

 悟ったわたしは前に飛び出し、大剣を盾代わりにソードブレイカーを受け止めた。

 切っ先が擦れ、耳障りな音を発する。


「――やっぱり、全身に受けていることに間違いはないね。

 でも、特化していないただの万能は、人よりちょっと優れているだけだ、よ!」


「っく!!」


 蹴りを剣に叩き込み、ふっ飛ばす――という型破りな攻撃をされ、低く呻く。

 図星、だった。

 先代は目を特化させ、状況を素早く判断する戦術を得意としていた。

 先々代は腕力。その前は体力を特化させ、疲労を抑える……などなど。

 ヴァーレンティアーズ家の歴代当主はみな、得意とする戦術に合わせて恩恵を受ける場所を決めていた。

 わたしは女である。

 歴代の後継者は男。

 屈強な一族の中で、わたしには特技と呼べる物はなく、どれだけ努力しても剣が扱えるだけの弱い存在だった。

 たとえば目を特化させても、それを活かせるほどの技量はない。力も、足も同じこと。

 だからわたしは全てにした。全てに満遍なく、人よりちょっと秀でるくらいでも……無力よりはマシだった。

 そして選んだ剣は、身体に似合わない大剣。

 盾にも成り得る、守るための剣だった。


「……アンタは、魔人よりも悪鬼が相応しいよな。それに、わざわざ魔人を探さなくても、魔法は人間の誰でも扱える力。プラス、得意の『思い込み』で成ればいいだろう?」


「やれやれ。君は何も分かっちゃいない」


「分かりたくもないね」


 ジリジリと互いの間合いを計る。

 正直、当時の力量での軍配は、わたしに上がっていた。負ける要素も微塵もなかった。

 しかし、二度剣を交えただけでも分かる。カインディスの力は、明らかにわたしの上を越えていっていた。

 人は成人時に成長のピークを迎えると言われている。そのピークを越えて尚、この実力ならば……奴の『思い込み』のレベルが上がっていることになる。

 思い込み、イコール、自己暗示。

 ……けど、人の心は思い込み程度で変われるのだろうか?

 カインディスこそ、異状で異常な異質だ。


「さあ、我こそが魔人であると言う金色は、僕の前に出ておいで。じゃないと、一人一人に聞くことになるよ?」


 ソードブレイカーを振り回しながら、にこやかな口調で脅迫する。

 一人一人に聞く――の『聞く』は、命を奪うぞという意味だ。

 たった三年の空白で、これほどの異常になるとは……先代も誰も、予想できなかっただろう。執着心と思い込みと。狂気で凶人。


「…………ふーん、誰も来てくれないんだ。じゃあ、僕から聞きに行くよ。

 まずは……うん、そうだ――さっきから目障りな君から行こう。近くだしね」


 ――マヒト!

 未だ震えている彼に、自分の身を守れと言うのは酷だろう。投げられた石さえも、避けることをしないくらいだ。

 それに……マヒトは人を傷つけることはしない。体術は使えるようだが、それはあくまで『他人を助けるための手段』らしい。傷つけないための方法。滅多なことじゃ使わないし、進んでも使わない。


「アンタの相手はボクだ!」


 わざと声を張り上げ、自分を主張する。

 カインディスが最も嫌うのは、自分を上から目線で見る存在。

 実際、わたしはまだ自分が上であるという態度を崩していない。自負するワケではない。まだ絶対的に劣っているとは言い切れないからだ。


「僕の邪魔をしちゃダメだよ、許さない」


 あからさまに『不快です』と表情に浮かべ、剣の矛先をわたしにむける。

 突き刺す動作しかしないのは、急所を一撃で――と狙っている魂胆の現れだった。

 斬れば急所に届かず、万が一の確率で助かるかもしれない。少ない動作で確実さを追求した結果だ。

 右、左と交互に繰り出される突きを、全て剣で受け止め流す。二刀剣を会得するのは難しい。きっとそれも『思い込み』だ。


「このっ!」


 剣を支えに、遠心力で蹴りを放つ。剣技と格闘術を組み合わせた独自の方法――剣闘術と名付けている――だ。大きく振る剣は、当然ながら回避されやすい。

 だから、そのまま剣を地面に突き刺し、勢いに乗せた蹴りを放つ。どのタイミングで格闘へ持ち込むかが決め手となるだろう。


「お見通しだよ」


 余裕綽々と回避され、カウンターで剣を突き出される。が、届く前に剣を支えに身体を浮かせ、空中に逃げる。

 それだけで終わるわたしではない。

 空中に逃がした身体を倒立させ、真下のカインディスめがけ踵落とし……も、余裕で交わされた瞬間、地面に着いた足に力を込め、後ろ手に掴んだ状態の剣を振るった。

 カウンターに対するカウンター返し(二段仕立て)。

 勢いに乗せた大剣が、受け流そうとした右のソードブレイカーを捉えた。



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