07 金色の場所、〝狂人〟との遭遇。4
「っ、断る!!」
剣を地面に突き刺し支えとし、カインディスの身体を蹴り飛ばす。
しかし、わたしの力が足りなかったのか、それとも勢いが足りなかったのか、距離を取るのには不十分だった。
大股、三歩。
一歩踏み込めば、互いの間合いになる。
「君はどこに受けたのかな?」
頭の天辺からつま先まで、嫌らしいほど視線を巡らせる。
「先代は目に重点を置いていたけど……判断力を促すために脳?
それとも、脚力のために足?
いや、どれも違うね。君は…………――」
再び突き出された切っ先を、今度はきっちりと剣で受け流し、弾き飛ばした。
「……君は継承の恩恵を『全身で』受けたね。だから大剣を振るいながらも、機敏に反応できる。その恩恵こそ、魔人たる僕が受けるべきだよ」
「トチ狂った奴に、恩恵がもたらされると思うのか?」
「酷いな~、僕は至って普通。正常だよ。本来なら僕が正統後継者なんだけど、どうして君が後継者に選ばれたのか分からないよ」
「そりゃ、アンタが凶人で異状で異常なバカだからに決まっているだろ!」
相手に武器がなくても容赦なく剣を振るう。
受けきれないと分かっているカインディスは大きく飛び退き、背中から短剣を二本取り出した。
ギザギザの刃はソードブレイカー――カインディス『本来』の武器だ。
奴の特技は壊すこと。
守るためでもなく、ただ己に対する武器を壊すためだけに振るっていた。
生まれたその時から、奴は異常で異質で、凶人。
優男に見えるその中身は、ドス黒い狂気で形成されている。
こんな奴を正統後継者にしてしまった日には、故郷どころか世界が壊されかねない。だからと言うか、当然ながら恩恵は与えられず……わたしが継ぐ形となった。
――おかげで重い使命を背負わされるし。
別に嫌ではないけど。
「…………アル、この人」
「悪い。事情は片づいてから説明する」
それまで黙っていたマヒトが口を開く。が、事情を説明していられるほどの余裕はない。
剣を構え直すわたしに、
「違う、そうじゃない。この人は何なんだ?」
口元を抑え、震えながら告げられる。
「何って……どーゆー意味?」
「……オレはみんなにどれだけ嫌われても、オレはみんなが好きだ。
世界の誰にも愛されなくても、オレは世界を愛おしいと思う。
けど、この人に対しては……海が怖いっていう感覚よりも、全身が、オレの全てが怖いって叫んでいる。この人の存在は、オレにとって何なんだ?!」
異状な異常。
全てが異質。
凶人で狂気。
そんな言葉でしか奴を表現できないし、わたし自身それが該当するとも思っている。
けど、彼にとっては違うらしい。狂気を受けたからではなく、存在そのものに対して何かしらの感覚を抱いていて、好きなはずの人なのに、受け入れられないのだろう。
感覚の名は、恐怖。あるいは嫌悪。
多分、マヒトは一生かけても受け入れられないだろう。吐き出したいほど、震えているのだから……。
「金色か。君は魔人かい?」
「っ!」
ビクリと身体を振るわせ、一歩後退る。
その行動にどう思ったかは分からないが、カインディスの表情が歪んだ。多分、不快そうに。
「君の金色は、随分と目障りな輝きだね。魔人じゃないなら…………死ネ――」