06 金色の場所、〝狂人〟との遭遇。3
「怖いモノを無理に好きにならなくてもいいよ。
……確かに、海は恐い。島なんて、嵐の被害で塩水被った家がボロボロだし、常に恐怖と隣りあわせで生活しているんだ。何年住んだって、ボクも恐いよ」
何のフォローにもならないけど。わたしの正直な気持ちだった。
人には恐いモノがある。克服なんて、無理にしなくてもいいと思う。
「うん、海のことは知っている。今は無理かもしれない。だけどいつかきっと、好きになれるって思う。だって、海も世界の一部だからな」
にっこりと(無理やりに)笑って言う彼は、本当に世界が好きなんだなって感じた。
何が彼をそうさせているのだろう?
触れてはならない気がして、わたしはそれ以上言うことはなかった。
多分それが、わたしとマヒトの壁。
「――アル、この先で人が集まっている」
「え?」
と、示された方向を向いた瞬間、誰かの怒号が響き渡った。
声だけじゃなく、殺気も流れている。
見れば、金色持ちの人が手に棒やほうきなど、武器になる物を手にし、集まっている。例の『変な男』が騒ぎを起こしているのだろう、と推測できた。
確かめるべく人集りに入り込み、原因を見る。
黒紫の髪だが金髪混じりで、紫の目。
背が高くて顔はイケメンで、細身の剣を携えてはいるが、パッと見は弱そうな優男なソイツは……狂気を放っていた。
わたしは隠している片目を晒し、声を張り上げ、
「カインディス!!」
抜刀した。
「……おやおや。小生意気で神経を苛立たせるヒス声が聞こえたかと思えば、正統後継者のアルディじゃないか。
どうしたんだい? こんな往来の場所で抜刀なんて、ヴァーレンティアーズの名が廃るよ?」
「黙れ! 人様に迷惑だけしか与えられないお前が、正論を語るな!」
「迷惑? 誰が? いつ?
僕はただ『魔人』を探しているだけだよ。それに金色は人じゃなくて、世界にとっての異物であり異質だよ。ホント、魔人じゃないならただの邪魔な存在だよ」
「~~~っ!!」
自分を正当化し、それ以外を見下す。
どれだけ自分を過大評価し、上であると思い込んでいるのか。
こちらの言いたいことは伝わらず。会話がかみ合うことなどない。
怒りを押さえ込み、話を続ける。冷静さを欠いてはならない……と、分かっているけど。
「…………アンタ、その金髪はどうした?」
「ああ、いいだろうコレ? 魔人が持つ色。僕は魔人になる者だから、金色が備わっていなきゃ、って着けてみたんだ」
「そうじゃない! その髪をどこから持って来た?!」
「相変わらずのヒスで短気だね。どこの町だったかな~?
そうそう、思い出した。南の町で見せびらかすように長い金髪の女が居てさ、ソイツからちょっと頂いたんだよ。流石に女の髪だけあって、綺麗に手入れされているよ。
見てよコレ、まさに魔人になる者に相応しい輝きだと思わない?」
違う。そうじゃない。
わたしの聞きたいことは、そーゆーことじゃない。
髪の持ち主をどうしたか?
――聞いた所で、わたしが下す結論は変わらない。
「ねぇ、アルディ……僕が魔人になるためには、必要な物がいくつかあるんだ。
分かっているとは思うけど、その内の一つが魔人当人。その内の一つが――」
ガッ――咄嗟に受け止めた剣から、そんな変な音がした。
間合いを詰めたカインディスの切っ先が、わたしの剣の柄に突き刺さったからだった。
刃で受け止めたつもりが、相手のスピードと判断力が上だった……ということか?
「君の持つ、正統後継者の証。つまり、この世界に名を馳せるヴァーレンティアーズ家の継承印だよ」