04 金色の場所、〝狂人〟との遭遇。1
西地区に辿り着くと、少し騒がしかった。
何が起こっているのか知りたくて、適当に人を捕まえて聞いてみる。その人も金の髪で、彼とは違う淡い色をしていた。
「ああ……アンタは金色持ちか?」
「片目にね」
というのは嘘である。
警戒心を解いてもらうため、あえて片目を隠したのだ。利き目じゃない方だが、片方だけの視界は辛い。
マヒトはもっと辛いだろうから、我慢する。
「オッドアイとは珍しいな。けど仲間には違いないし、教えるさ。
数日前からこの地区に、変な男が滞在しているんだ。そいつは金色持ち全員に、『お前は魔人か?』と尋ねまくっているんだよ。
冗談じゃない! ただでさえ魔人と思われるだけでも嫌だってのに」
大きな舌打ちは聞こえなかったことにする。
チラリとマヒトを見れば、気にするなと表情が語っていた。
「そうだ、変な男って言っていたけど、具体的にはどんな?」
聞くと少し考えるそぶりをし、答える。
「簡単に言うと黒紫の髪……ああ、アンタとよく似た色だが金髪混じりで、紫の目。
それから背が高くて顔はまあ……俗に言う、イケメンだろうな。細身の剣を携えてはいるが、パッと見は弱そうな優男、だな。
とりあえず、そのうちアンタらも会うだろうから、一応は、覚えておいて損はないぜ。と言っても、覚えなくとも頭や姿を見れば一発だ」
「…………情報、アリガト」
礼を言って、その場から離れる。
金髪混じりは分からないが、魔人を探す黒紫髪で紫の目。背が高くて細身の剣。パッと見は弱そうな優男――この条件で当てはまる人物に、心当たりがあった。
それこそ、わたしの旅の目的。魔人と居る理由だった。
「――アル?」
「ん……大丈夫。マヒトこそ大丈夫か?
今の言い方からすると多分、その魔人を探しているってヤツに会うとなると、嫌な思いをするだろうから」
「オレは、人を嫌ったりはしない」
と、にっこりと笑う彼に『いつものこと』と思いつつも、脱力せずには居られない。
たとえ相手が盗人でも、彼は笑って許すだろう。殺されようとしても、だ。
そして多分、これから出会うだろう人物も…………結局は許すことになるだろう。
世界は互いに傷つけあうのがごく当たり前なのに、マヒトを見ていると、忘れてしまいそうだ。
「…………分かった。けど、何度も言うけど魔法は使わないこと!
これから宿に泊まるけど、何があっても絶対にぜーったいに、アンタもボクも普通の金色持ちだから」
「うん。分かっている。キミが傷つくようなことにならないよう、気をつけるから」
「本当に分かった上で言っているのか?」
詰め寄ると、
「ま、前向きに善処したいとは思っている。うん」
相変わらず顔を逸らす。
気をつける――その台詞をそっくりそのまま返してやりたかった。
できることなら、平穏無事でこの町を出たい。と言うか、出させてください。
祈りつつ、目的の宿へ辿り着く。
普通の人間が暮らす建物と比べたら、老朽化が目立っている。
「いらっしゃい。食事だけかい? それとも泊まり込みかい?」
「宿泊込み。空いている部屋はある?」
「一人も二人も、今日は両方あるよ。どうするか決まったら、宿帳にサインをしておくれ」
宿屋の主人も女将さんも、当然だが金色持ち。たとえそれが髪の一部分でも、金色は金色である。そんな人間、世の中にはたくさん居るのに。
心の中で文句を言いながら宿帳を開く。
最初に書き込むのはマヒトの名前。ファミリーネームがないのは、金色持ちの間では珍しくもない。捨てられたり、捨てられたり……。
自ら付ける人も居るらしいが、逆にもっと酷い目に遭うことになる。だからあえて付けない人が多い。
と、左の埋まったページが目に入る。