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32 決戦前日。



 剣を振るう。

 おかげで元通りの身体になった。

 わたしだけ。

 マヒト曰く、布陣を共有して使っていたため、父さんやじぃサマにも効果が続いていた普通は一つの陣につき一人だそうで、この背に刻んだ陣はわたしだけにしか反応せず、父さんたちは効力を失ったままになっているようだ。

 カタチあるものは、いずれ失われる。

 ――いや実際問題、失われちゃ家が困ることになる。

 恩恵があってこそのヴァーレンティアーズだ。

 まあ……家は失われたが、名がなくなったワケではない。たとえ小屋住まいになったとしても、誇りや思想は変わらない。


「まっ、こんな感じだろうね」


 恩恵(強化補助状態)の感覚を取り戻し、剣を収める。

 陽が昇るまで、どこまで対策が練られるか。


「――アル」


 声の方向に振り向くと、少し顔色の悪いマヒトが見えた。

 小屋のランプ、その弱い明かりでも分かるほど、消耗させてしまったらしい。


「悪い。じぃサマ、どうだった?」


「大丈夫だ、さっき意識が戻った。今は大事を取って眠ってもらってるから」


「…………ゴメン」


「何で謝るのか分からないが、誰かを助けられる力があるから、オレは全力でその力を使っただけだ。

 キミの剣が誰かを守れるように、魔法は誰かを助けられる力だから。

 悪いとかゴメンは、ちょっと困る」


 哀しげな笑みが欲しているのは、


「……アリガト」


「うん」


 彼に魔法を使わせたことよりも、想いに対する感謝だ。

 一番最初に言わなければならない言葉を欠いていた。


「――ならば、私からも礼を言わせてくれ」


 と、マヒトから遅れて出てきたのは、じぃサマに付き添っていた――と言うか護衛をしていた――父だった。

 口調はヴァーレンズ家当主、ハイエンドとしてだ。

 あえて当主としてなのは多分、ケジメとかの問題なのだろう。


「マヒトくん、だったな。感謝する。ありがとう」


「え、あ……えーっと」


 戸惑っている。

 そう言えば、ミナリーを助けた時も同じような反応だった。

 原因がわたしたちにあるにも関わらず、彼女とその父に感謝されたのだ。

 ――まあ、ソッチは戸惑って当然だろうが。

 やがて受け止めたのか、照れくさそうに頬を掻きながら言う。


「…………アナタの大切な人を助けられて、良かった」


「マヒトくん……」


 ギュッ――と、どうしてそうするのか、マヒトを抱きしめる父に、若干引いたのは言うまでもなく。

 剣を抜き、首筋に当てた。


「オヤジ、何をしている?」


「い、いや~……何となく、抱きしめたくなるような愛おしさがヒシヒシと伝わってな。

 で、これも何となく守ってやりたくなるような、父性本能というヤツがこう」


「だからって、行動に移すなよ」


 父性本能という言葉はないと思う。

 守ってやりたくなるのは、分からないでもないが。

 やれやれと呆れながら、アホな父を引き剥がす。

 その際、マヒトが名残惜しそうな顔をしていたのは……見なかったことにする。

 大人の抱擁というか、父母が恋しいのかもしれない――と、思うことにして。


「ま、冗談はこれくらいにして、真面目な話をしよう。

 諜報員が持ってきた情報によると、アレは島の反対側に潜伏し、殺戮は行ってはいないが、近隣の住民の恐怖を存在するだけで煽れるほどになっている。

 ――とのことで、策は浮かんだか?」


 急に真顔へと戻り、痛い所を突いてくる。

 当主としても父としても、わたしが煮詰まっているのを見抜いてのことだろう。


「三年前の力押しとは状況が違う。確実が必要だ」


「…………そんなこと、分かってるよ」


 背中の小さな痛みは、まるで針に指されたようなものだった。


「世界は広い」


「は?」


「この広い世界で、お前以上の実力者は存在するだろう。いつか誰かが止めてくれる……そんな希望もあるし、ソレを頼るのも戦略の一つだ」


「それ、他力本願」


「ああ。父さんたちも他力本願――アルディ頼みだ。そしてアルディが、世界にとっての最後の砦だとも思っている」


「…………確かに、アイツの狂気は世界に害を成そうとしているよ」


 父の言う世界は『世界』であって、わたしの言う世界とはマヒトのこと。

 意味は違うが、世界であることに違いはない。


「そうだな。さて、どうしたものか……」


 三年前の力押しに関しては、奴にも言ったが必死だったの一言である。

 しかし、今のわたしは違う。確固たる『守りたいモノ』のために、剣を振るうのだ。

 だが、大剣は守るために作ってもらった力。この剣ではねじ伏せることはできても、抹消させることはできない。どうやってもだ。

 ならば、と考え、ふと思い浮かぶ。

 おそらく、この方法なら倒すことは可能になる。が、その方法に待っていくまでの課程が難しい。あるいは途中で気づかれてしまう恐れもある。

 カインディスならあり得る。

 全てが上手く行くとは思っていない。

 たった一度、一瞬でも隙ができさえすればきっと。


「何やら思いついたようだが、お前の好きなように考えた方法が最良だと思うよ。父さんにはもう、思考できるほどの特化はないから」


「うわっ、そーゆー投げられ方が一番困るし」


 信じているからこその発言だろうけど。




 夜空を見上げる。


 星一つない不穏な闇は、明日の行方を暗示しているかのようだった――




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