31 目覚めた〝彼〟は―― 3
――認めてやる。確かにわたしは、カインディスを見つけるためにマヒトと行動した。
だけど、今は違う。
わたしは、マヒトという〝世界〟を守りたいと思っている。
ただ純粋に、世界の悪意から。
今というこの瞬間を守りたいと思った。
「――わたしはもう、選び終えている」
完了を変える気は最初からない。選択をリセットする気もあり得ない。
答えは、決まり切っていた。
服を脱ぎ捨て、背中を晒す。
「あ、ああアアルディッ?!」
「ん? 背中なら傷ついても大丈夫。負傷するのとは違うし、剣士の恥にならないから」
「そ、そうじゃなくて!」
「何? まーだ、覚悟ができてないって言うつもり?」
「…………………………………………うぅ、無意識なのが怖いのだが」
半ベソ状態の声で、背中に触れる。
「――最初に言っておくが、これはヴァーレンティアーズ家にあるという強化補助と同じだ。つまり、対象者が願った効力が発動される。身体全体になら全体へ。
ただ違うのは、魔法をキミの意思によって追加発動できる点。たとえば、もっと力を入れたいのなら、気持ちを背の陣と連結させるだけで、一時的に要素がプラスされる。効果対象をどこに選んでも、追加発動はキミの意思次第になる。
だけど、やっぱりリスクがある。プラス要素を使えば背に刻んだ陣は発動の際、キミに痛みを与えてしまう。だから一回につき一度だけだ。無理しても二回が限度だから使いすぎに注意すること」
「分かった」
限度まで使ったとして、それでも足りないとするなら『覚悟』だろう。
「…………本当に分かって言っているのか?」
「だいじょーぶ、大丈夫。あとは背中を斬られないようにするだけだろ? アーマーでも仕込んでおくよ」
「………………何だか不安になってきた」
冷たい手が、ほんのりと暖かさを帯び始めた。
全身に流れる〝気〟のようなモノが感じられると、継承の儀式をした時を思い出す。こんな感じで奴と戦う意思を高め、願ったのだ。
継承権を持つ制裁騎士の務めとして。
なにより、ヴァーレンティアーズの誇りとして。
だが、今度は違う。誇りも継承権も、騎士の役目も恩恵がどうこうも関係ない。
一つだけ、
「世界の祝福を、キミに――」
強く願う。
「我、ヴァーレンティアーズ家の秘文を唱えん。
力は炎、意志は土、まといしは風、育むは水。祖に根付くは全。恩恵受けし我は一を望み、それを用いて十の心を示す。
今ここに、誓いを立てよう。
一の望みは我が存在へ。その全てを賭け、十の心は〝世界〟を守るために!!」
世界は、マヒト……――