02 〝わたし〟のこと、〝彼〟のこと。 2
「……キミは、それで良いのか?
キミはオレと違って、普通の人だ。オレと一緒じゃ宿にも泊まれない」
「別に野宿でも構わないって。野営は慣れているし、宿代も浮く」
町に行けば仕事があるとは限らないし、できる限り節約はするために野宿もする。
お金は降って湧くワケじゃない。
「ダメだ! だってキミは男装しているとはいえ、立派な女の子なんだから!」
思わず目を見開く。
彼が見抜いていたことは、出会った当初に明かされている。
分かっていられても、こっちは別に気にしていなかったが、口に出されると自覚させられそうだ。
わたしは自分に対し、女であるとか女だからと言った振る舞いは一切していない。
『わたし』はあくまで『ボク』で、どんなに声が女の高さだと言われても、男であると貫き通してきた。
大抵は大剣振り回している時点で、コイツは男だと思われているし。
世界中を探しても、大剣を振り回している女はきっとわたしくらいだ――と言うのは、少し大げさすぎるけど。
女扱いされるのが嫌というわけではない。
ただ……今はそれが必要のないことだった。
「ダメっていうのは、女だから?」
「そうじゃない! 女の子だからと言ったのは謝る。それは差別だった。
ダメなのは野宿に慣れることで、キミは普通の人だから、宿で休めるのなら宿に行くべきで……その……」
多分、マヒトが気にしているのは一緒に迫害されること。同じ境遇に陥らないようにと、あえて離そうとしているのだと思った。
気持ちはありがたいけど、わたしにも事情がある。
マヒトを利用しているようで心苦しいけど、これが一番確実な方法だった。
だから、一緒に行動する理由を作っている。
「…………はいはい、気遣いどーも。けど、できるなら自分を気遣えってーの」
文句を言った所で、彼は自分よりも他人を優先させる。そうして自分が傷ついても、同じように笑うのだ。
大丈夫だ、とか。仕方ないよ、とか。
決して報われず、救われない。
魔人とは、哀しい生き物……。
こんなバカは悲しいだとか悔しいだとかで、おもいっきり泣いてしまえばいいんだ。
むしろ、さっさと泣け。
――と、胸の内で悪態を吐く。できないことを言っても仕方ないから。
「とりあえず、魔法は自重しろ。かすり傷程度でも使うな。普通に手当てしろ。
何よりも自分を魔人って言うな、絶対に。自ら迫害される原因を作るなんて、バカとしか言いようがないから。
あと……魔法を使う時は本当に、ほんっとーに、必要に迫られた危機的状況だけにすること。それ以外は絶対にダメ。
それから……えーっと…………とにかく、いろいろ自重しろ!」
「ま、前向きに善処はしようと思う。うん」
「…………だから、何で目を逸らすのかな?」
つまりは、言っても無駄だってこと。
分かっちゃいるけど。