24 最低なルールへの怒り。1
ドンドンドンドンッ!!
迷惑を顧みない乱暴なノックがしたのは、ミナリーが出かけてからずいぶん経った頃。
父親が帰ってきたにしては、様子が変だ。
それに……敵意に似た感覚――おそらくは悪意――が扉の向こうに感じられた。
「開けろ!」
挨拶も名乗りもしない人物は、世間一般では『怪しい者』と分類される。
――ので、こう返すのは正論だ。
「こちらの留守を預かっている者だが、家主の許可のない者、訪問予定にない者には開けられない。
開けて欲しくば名と、訪問理由を告げるのが礼儀だ。面会なら日を改めること。用件ならば伝えよう」
聞いた所で、開ける気はないけど――と、心の中で付け足しておく。
威厳のある口調は、後継者としての最低限の姿勢なため、一応習得している。こんな所で役立つとは思わなかった。
「貴様、何者だ?」
「…………コイツ、バカだ」
思わずポツリと呟く。人の話はきちんと聞きましょう、だ。
「先ほど、留守を預かる者と言ったはずだ。そういう高慢な態度のキサマこそ、何者だ?」
「我々への侮辱は許さん!
我らはガルンの治安を守る勇士団。この家の者は収入にあり得ない金を所持していた。出所不明金、不正収入は懲罰に値する。よって、家内の捜索に入る」
同時に、扉が蹴破られる。
だが、破った扉からは誰一人入ってこなかった。いや、来られないのだ。
わたしが、剣を向けているからだ。
「な、何の真似だ?!」
「家の留守を預かる者として、不法侵入者への牽制。出所不明金、不正収入と言うが……アンタ、貯金って言葉知っているのか?」
「バカにしているつもりか?」
「じゃあ、知っていると前提して言う。ミナリーが持っていたお金は、生活費を削って蓄えた――とは考えなかったのか?」
「だが、いずれにしろ出所不明金に違いはない」
捉え方の違い。
奴らは『持てるはずのない金』を出所不明金としている。蓄えていたお金という概念も考えも、最初から存在していなかった。
「……彼女へのお金は、ボクらが宿賃として出した。家を宿として提供してもらうんだ、相応の報酬だ。もしもそのお金を巻き上げると言うなら、ボクらに返してもらおうか。出所はボクだからな。それに彼女はそのお金で、ボクらの世話をしようとしていた。つまりは買い物代行。彼女が私欲のために使った証拠でも?」
「……ふん。それにしては大金だな」
「百ゴルドのことか? ガルンの宿賃は低いんだな。大きな町は食事代込み二人分であれが相場だ、知らなかったのか?」
と、バカにした口調で返せば、知らないことを『知らない』とは答えないだろう。
百ゴルドが相場というのは、半分は嘘である。王国の宿賃にはあるが、大きな町ではせいぜい五十ゴルドが最高額だろう。
「おい」
「はっ!」
合図と共に、扉からわたしの足下へ投げ入れられる。
ミナリー――
殴られ、水をかけられ、ボロボロだ。
「この女は返す。だが、この金は収入申告がされていないため、不正収入に値する。よって、全額没収の対象だ」
そして奴らは、そのお金を横領する。良くできた仕組みである。
金に汚い外道の治める地だ。
……という視線に気づいたのか、
「ふん! 引き上げだ」
忌々しげに言葉を吐き出した。
ぞろぞろと帰るバカたちに、わたしは声をかける。
「――月夜でも、背中には気をつけろよ」