23 ヴァーレンティアーズ。3
圧倒的に足りない。
差を埋めるために剣技に格闘術を織り交ぜ、今のわたしを創り上げている。
しかし、マヒトは何が聞きたいのだろう――疑問に思っていると、荷物から紙と墨を出し、指で書き込み始めた。ペンはどうした?
「……それの紋様って、こんな感じか?」
二重の円の中に、三角形を二つ組み合わせて。
真ん中に描かれているのはまた円だが、塗り潰された部分を除いて見れば、三日月のような形に錯覚する。
円と円の間には文字らしき形が描かれているが、指で書いた文字のため、潰れたり滲んだりで読めない。それに実物のモノも読めなかったりする。一族には継承に必要な秘文だと言い伝わっているが……多分、間違いはない。
「そうそう、こんな形……って、何で見たこともないアンタが分かるんだ?!」
「うん。見なくても身体能力が上がるって話で大体が分かっていた。そして話を聞いて、ようやく納得できた。
キミが持っていた輝きは、強化補助の魔法を受けたからだ」
はっきりと断言。
「…………じゃあ、ボクらヴァーレンティアーズ一族は知らないで魔法使っていたってことになるの?!」
「多分、その通りだと思う。でも、だからと言って悲観することはない。
術式を組んでの魔法は、きちんと世界に敬意を表しているから冒涜ではないし。声がしたのはマナが反応した証拠だ」
「……いや、悲観してはいないけど」
驚きはした。
マヒトの発動する魔法を見て来たが、改めて魔法のすごさを思い知った。
しかし――と、考えてみる。
回復魔法という人の身体に作用する力があるくらいだ、身体能力を増大させる魔法があっても……ああ、驚くことじゃない。
そうだ。
冷静になれば魔法というのは、人の力ではどうすることもできない奇跡だった。
でも……継承儀式が冒涜じゃないのなら、マヒトは冒涜し続けていることになるのか?
「あと、ボクからも質問。ボクが持っていた輝きって何のこと?」
聞くと、彼はうーんと考え込んだ。どうすれば伝わるかを考えているように見える。
しばらくの間。
「――初めて会った日、キミを取り巻く世界が輝いて見えた。キミが世界に祝福されていたように感じられて、キミが世界なら………………オレを受け入れてくれるのだろうか?
多分、存在してもいいのか聞きたかったんだと思う。
だからオレはキミと、キミを取り巻く世界に声をかけた。こんにちは、って」
返ってきた言葉は、意味の分からないものだった。
占い師などはよく『オーラが見える』と言うけれど、マヒトにも占い師が見える世界が見えたのだろうか?
「マヒトの視える世界って、色があるものなの?」
「…………そうだと思う。きっと」
言って俯いたマヒト。多分、カインディスを思い出したのだろう。
色が分からないわたしでも、奴はドス黒い色をしているだろうことは想像できた。