22 ヴァーレンティアーズ。2
留守番役になったわたしたちだが、家に入ってからマヒトは一言も口を開いていない。
表情は、ポカンと惚けている感じだ。こんな扱いは初めてなのだろうか?
目線が合うと、はっ――と気づいたようだ。
「あ……えーっと…………ヴァーレンティアーズって、すごいんだな」
「ボクにとっては当たり前なんだけど」
故郷のタキオンは小さな島だけど、そこに住まうヴァーレンティアーズと連なる一門は大きかった。
表現は大げさかもしれないが、島の住人全員が一門と言っていいほど。
剣を習い〝制裁騎士〟を目指す者。諜報を主とし、影ながら支える者。ミナリーの父のように、橋渡しをする者など。皆、いろいろな形でヴァーレンティアーズと関わっていた。
どこの国にも属さず。戦争には干渉せず。悪事だけを暴き、裁く存在。
――と、本来ならマヒトには言えない話なんだけど。
言っても差し支えないと判断し、話した。
「オレ、そんなすごい人と一緒に旅をしてきたんだ……」
「すごくはないよ。特にボクなんか、正統後継者と言っても全部の権限がまだないし」
恩恵を継承しただけ。
悪事を裁く権限は(一応)あるが、わたし単独ではたった一人を裁くためだけにしか効力がなかった。
ガルンの悪事も、裁く存在である〝制裁騎士〟を派遣しなければならないのだが……明日、島に帰ったとしてもすぐには動けない。何故なら、カインディスを迎え撃たなければならないからだ。
ことが落ち着くまで、島は閉鎖状態になるだろう。
もしもここに諜報員が居て、しっかりとした裏づけ情報があるのなら……権限の下、あの外道を裁くことができなのに…………。
情けない自分に、ため息しか出ない。
「……アル。実はずっと気になっていたことがある。この際だから、聞いても良いか?」
「良いけど、何?」
「キミが持つ継承権の恩恵。受けると身体能力が上がるみたいだが、実際、そんなにすごい力なのか?」
「あー……どうだろう? 一族に当たり前のように伝わっているモノだから、威力とか効力がどうなのかピンとこないね。
周りがすごいと言っているなら、すごいモノなんじゃない?」
身体的に秀でている部分があるのは、それがヴァーレンティアーズ家の特権だから……すごいとか思ったことはなかった。
継承権を得たなら、恩恵も受けるという当たり前の流れを疑うこともなかったし。
改めて聞かれると考えてしまう。
「それ、どうやって授かった?」
「どうって……方法のこと?
どう言えば良いのかな…………言っても差し支えないから言うけど、紋様の書かれた部屋で精神統一して、一族に伝わる秘文を口にする……だな。
あとは紋様が反応するかどうかで、継承権の有無が認められる。認められたら、どこからか声がするんだ。
アナタは、どんな力を望みますか?
守る力のために、ボクは全てに望んだ。力でも思考でも、何に対してでも力が発せられるように」
その結果が、人より少し秀でた状態だった。