21 ヴァーレンティアーズ。1
案内した女性――ミナリーの家は、服から想像していた以上に質素だった。
彼女の父は先々代に仕えていたが、先々代が本格的な隠居を決めたのを期に、ガルンからの橋渡しの役を買って出たそうだ。わたしが十歳の時の話になる。
しかし……――と、見渡してしまう。
ヴァーレンティアーズ家からは支援金が出ているはずなのに、この暮らしは何なのだ?
「あのさ……答えたくなければいいんだけど。ヴァーレンティアーズからの支援って、滞っているのか?」
「い、いえ! 毎年、それはもう十分なほどに頂いております。余ってしまうほどです。
……と言っても、今の状態では説得力もありませんよね」
彼女は俯いて、握る手に力を込める。
「町長が替わってからなんです。酷くなったのはここ五年ほどのこと、ですが……最近では税が上がりました。毎月、収入の六割から七割。
加えて、町長の誕生日には税収の代わりに『奉納金』と称し、月の収入を全部……ただし、一定額以下であれば私財をなげ売らせてでも支払わなければなりません。頂いている支援金は…………不足している税金や奉納金に充てています」
すみませんと謝る彼女に、悪い所は何もなかった。
支援金は、ヴァーレンティアーズに仕える者が生活できるようにとの計らいであり、感謝の気持ちでもあった。ある意味では報奨金だ。
彼らが居るおかげで、どこに行ってもヴァーレンティアーズは活動できる。苦労をかける場合もあるため、本来ならもっと上積みしなければならなかった。
「どう使おうが、支援してくれる限りは干渉しないよ。けど……あの外道が居る限りは支援金があっても辛いか」
問題は、根本をどうにかしなければ解決にならない。
話し合いで解決できるとは思えない。
そもそも、あの外道が話を聞くとは到底思えないし。
「……って言うか、何であんなのが町長になれたのさ?」
「前町長の息子さんです」
「あー…………スネかじりでのコネか」
だとしたら、親も相当な外道だったか。甘やかした結果がアレだとは思いたくない。
「今の所、町長に妻も子も居ません。ガルンは世襲制ではありませんが、次期町長の指名権は現町長にあります。
このまま跡継ぎができなければ、違う誰かを町長に指名することになるのですが……一体何年先の話でしょう」
現状に絶望しながら、それでも生きていく。倒れるならミナリーたちが先になる。
貧困という驚異は、剣では守れない。
出されたカップは欠けていて、中身は水。火を起こしても、燃やす物がないからだ。
「よし――」
荷物からお金(実はへそくり)を取り出す。
一時凌ぎに過ぎないが、それでもマシだろう。
「ミナリー、これだけの金額で悪いけど今日の宿賃。ボクと言うよりは、ヴァーレンティアーズからの支援として受け取って欲しい」
「そ、そんな! そういうためにお連れした訳でも、お話した訳でもありません!」
「ヴァーレンティアーズの支援と言ったのを聞いてた?
本来ならすぐにでも〝制裁騎士〟らを派遣すべきだけど……あいにくと、それができない状況で。今日明日を過ごす分だけで悪いね」
と、強制的に握らせる。
受け取ってもらわなければならない――は、わたしの自己満足だ。支援と称することで、何もできない現状から逃げていた。
「…………分かりました。では、ヴァーレンティアーズ家を支援する者として、精一杯のおもてなしをしますね」
無理矢理に笑って、彼女は買い出しに家を出た。