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20 戻った港町で、出会った女性。





 夜を炭焼き小屋で過ごし、明けて朝。

 戻ったガルンは活気に溢れていた。

 それは魔人の親を倒したという証拠。カインディスが知らせに、ここを通過した証拠。

 変わっていないのは、金色に対する過酷な扱いだけ。商船の人間が、相変わらず怒号と共に鞭を振るっている。

 助けたい――気持ちはマヒトも同じらしい。

 けど、わたしたちは互いに腕を押さえつけた。

 全員を助けられるだけの力はなく、生きていく術を教えられない。故郷で受け入れる策もあるが、圧倒的に許容オーバーだ。

 彼らから避けるように裏路地へ入り、小さな漁港へ出た。

 大きな漁港に押しつぶされ、寂れてしまった場所。昔はここにも商船の出入りがあった。

 噂によると、町長が替わってから商船は自分の利益になるように仕向けているらしい。だから一歩路地を入ると、目立たない場所は寂れたり貧困だったりしているのだ。

 そんな海の見える場所で、


「……あの時は意識していなかったけど、改めて見ると…………海が、怖いと感じてしまう。でも、陸地が見えるから大丈夫……と、思う」


 彼の本音が零れる。最後が意味不明だ。


「いや、その大丈夫の根拠が分かんないって」


 ド真ん中だったら、大丈夫じゃないのか?


「大丈夫だ。我慢できる。それより、船が見あたらないようだが……」


「するなよ、まったく。

 船はあー……まあ、今日は絶好調に晴れているし、お昼過ぎても漁からは戻らないと思うよ、コレ。となれば、出発は明日まで無理だね」


 ガシガシと頭を掻く。

 漁師の船がダメなら、残る手は商船。

 一応、故郷にも物資を運ぶ船が停泊するのだが……乗船賃は法外だ。いや、詐欺だ。貴族レベルがポンッと出せる金額を、ただの一般市民が出せるはずもなく。

 わたしの場合、故郷からの出航だったため、格安であったに過ぎず。

 ――物資に紛れ込む手段だけは、絶対に使わないし。

 他としては、労働力として雇われる方法があるが、次の出航まで働かなければならないため、身動きが取れず不利点でしかない。

 どうしようかと座り込む。

 海の近くだったためか、マヒトは数歩後ろで立ったまま。


「船があっても、ボクは素人だから波とか読めないし。風があっても、操る術もないし。せいぜい、オールで漕ぐくらいだね」


「風の魔法なら使える」


「……あのさ、誰が帆のコントロールすると思って」


 悪くない手だと一瞬思ったが、コントロールするのがわたし一人であるため、無理だった。最低でもあと一人……力のある漕ぎ手が必要だ。

 途方に暮れそうになる。

 波の音。


「――あの」


 呼びかけられ、振り返る。声をかけたのは、少しくたびれた服を着た女性だった。

 恐る恐るわたしに近づき、言った。


「た、タキオンに響く」


「……ヴァーレンティアーズの剣戟は」


「世界へと響く」


「力強きラティール――」


 と、自分の心臓を指す。それが何を意味するのか、分かった女性は胸を撫で下ろした。

 今の言葉は互いの素性を確認するための合い言葉だ。


「――アンタ、ヴァーレンティアーズに連なる人だね?」


「はい。父が一門の出で、今は漁師に身を隠し、タキオンへの道を作っています。

 今日はその漁師として海に出てしまいましたけど」


 それは今日、故郷――タキオンへ連れて行けないことに対しての謝罪が含まれていた。

 『漁師として』は、生計を立てるため。家族を養うためだから、責める理由もないし、責めること自体お門違いだ。


「それにしても……いきなり合い言葉をかけるなんて、違っていたらどうしたんだか」


「あ、その点は父から『黒紫の髪で、紫の瞳。大剣を持ってはいるがやや小柄な体格。顔立ちは一見少女にも見えるが、見た目で判断することなかれ。彼こそ、間違いなくヴァーレンティアーズ家の正統後継者様だ』と聞いていましたので間違いないと思って。

 確かに少女と見間違えそうでしたし、体格も聞いて想像していたより小柄ではなかったので……声をかける最初の方は戸惑いました」


「ぐっ……三年前の情報だな」


 身長があまり伸びなかった昔は、それが若干コンプレックスだった。今は……一般女性よりは高い方だ。それでも同じ年頃の男よりは劣っている。筋肉もない。

 顔立ちに関しては仕方ないことだけど。


「よろしければ我が家へどうぞ。明日の朝一番で船を出しますから。

 …………そちらの方は、お連れ様ですか?」


「ああ。放って置くと行き倒れるんで、一緒に旅をしている。構わないよね?」


「もちろんです。栄えあるヴァーレンティアーズ一門の出、世間一般のような下賎な真似は致しません」


 胸を張って、誇りを宣言する。そうされることで、わたしも誇りに思う。




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