01 〝わたし〟のこと、〝彼〟のこと。 1
魔法を使ったことで、村人から『魔人め!』と罵られ、石を投げつけられ血を流しても、彼――マヒトは笑って『慣れているから平気だ』と言った。
全然平気じゃない笑顔で。
わたしこと、アルディ・ヴァーレンティアーズとマヒトが立ち寄った小さな村は、ついさっきまで大火事になる寸前だった。
原因は二つの偶然。
ここ最近の乾燥という自然現象と、村の外灯の残り火がふとした瞬間、持ち主の家に飛び移ったのだ。
木造の家は、あっという間に焼けていく。
火は隣の屋根に飛んで、村人総出で消化に当たるも、その家は水場から遠く。村人の半分諦めていた時、たまたま立ち寄ったわたしたち……と言うかマヒトが、水の魔法で消したのだった。
結果、全焼け三軒と、半焼け二軒で止まった。
幸いにもケガ人はなし。
あのまま燃えていたら、消火作業は遅れ、人口少ないこの村はきっと……滅んでいたかもしれない。
――なのに村人は、マヒトに石を投げつけた。助かったことよりも、世界に対する冒涜だとして……。
「あー、もう! ムカつく。ホンット、ムカつく!! アレが同じ人間のすること?!」
地団太を踏みながらも作業の手は休めない。
「そんなに怒らなくても大丈夫だ。何度も言うけど、石だけなのは、ほんの少しでも善意があったからだと思うし。この程度では死んだりはしない」
「ど・こ・が!? 善意があるなら『ありがとう』くらい言うって普通!
まあ……最初に会った時は、流石に酷い状態だったけど。はい、終わり」
「ありがとう」
額の傷口を手当し、道具を片付けていく。
マヒトは魔法が使える人間――魔人だ。
そんな彼には名前がない。だからわたしは〝魔法が使える人〟という意味を含め、省略して『マヒト』と名づけ呼ぶことにした。
そのマヒトは、自分に対して魔法は使わない。曰く、効果がないらしい。
わたしの傷は魔法でバンバン治すくせに……。
彼の身体には、いくつもの傷がある。もちろん、視えないけど心にも。
だけど、彼は笑って返す。大丈夫だから――って。見ているこっちが悲しくなるほどの笑顔で、だ。
「……アル。毎回怒ってくれるのは嬉しいが、オレと居る限りはずっとこのままで、ずっと同じコトをくり返してしまう。
キミとは成り行きで一緒になっただけで、この先一緒に居る理由もないし、理由にもならないから」
などと言うマヒトに指を突きつけ、
「そーゆーことを言うからには、今後この先、行き倒れないって胸を張って言えるんだ?」
「ま、前向きに善処したいと思っている。うん」
「………何でそこで目を逸らすのかな?」
詰め寄って見るマヒトの金色の髪は、相変わらず綺麗に光を反射している。
目は空色。晴れた世界の色だ。
もしかすると、これが逆に怖いのかも……と、思う。
あまりにも綺麗過ぎるから?
「ったく、もう。アンタが行き倒れないって分かるまでは、拾った手前、ちゃんと面倒見てやるよ。それに次の街ではきっと、今まで以上に苦労すると思うから」