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18 炭焼き小屋の惨状。




 南へ下った山の麓。

 炭焼き小屋は……壊滅していた。

 切り口から剣での所業であると同時に、カインディスの太刀筋であることが読み取れた。

 間違いなく奴はここへ来て――血の跡が、何をしたのか物語っていた。


「――〝魔人の『元』は殺した。次は故郷に〟」


「…………あの人のメッセージか?」


 頷かず、小屋の壁に刻まれた血文字を睨み付けた。


「とりあえず、周りを確認しよう。それで奴を見つけたら、真っ先に退くこと。ここの住人なら、魔法使って全力で助けること。殺したって言う確かな証拠は見てないんだ、感傷に浸るのはまだ早いよ」


「そう……だ。まだ何も確かめていない」


 のろのろと動き出す彼に、鞭を打つような気分だった。

 残された血の量から生きている確率を考えると、はっきり言って低かった。限りなく、ゼロ。それに、壁に書かれた血文字は、乾き具合から一日は経過している。

 魔人の親を名乗っている人が、マヒトと同じように魔法が使えるとも限らない。

 普通の人が出血し続けているなら……止血をしたにしても、希望は薄く。

 壊された家具や柱を取り除き、血の跡が一番酷い所を確認する。犯行現場であることは明白だが、死体はない。


「引きずった跡?」


 不自然に伸びた血の跡は、不自然に壊された壁の外にまで続いていた。

 辿った先は、炭焼きの釜がある小屋の裏手。

 マヒトが佇んでいた。


「…………誰、だった?」


 思わず聞いてしまう。

 小さな小窓のような所からは中は見えず。時々、炎の色だけが反射していた。

 彼はずっと釜を見つめたまま。


「魔人の親を名乗るのは、この世界で一人だけだ。騙る人なんて、誰も居ないと思う。だから、名前を確かめたかった」


「じゃあ、この人は?」


「ラクア・リステージ……育ててくれた人の…………身内の人」


 哀しそうに呟いた。

 外を見ていただけの彼が、どうして分かったのだろう?

 中に居たわたしでさえ、住人が誰であるかの手がかりすら掴んでいないのに。


「……お墓が、あった。

 刻まれた名は、レクア・リステージ……オレを育ててくれた優しい人。

 だけど……オレが魔人だったために、死んだ人、の。

 お墓を作れる人は、一人しか居ないから……開けて確認しなくても、分かった」


 小さく震える肩。

 辛いなら泣けばいいのに。泣いたっていいのに。

 その人を大切に思うなら、悲しみを表に出さないと伝わらない。

 思わず触れそうになった手を引き戻す。

 奪ったのは、わたしの身内。だから、わたしが慰めるのは間違っていた。


「守れなくて……ごめん」


 この事態を含めて全て。

 三年前、カインディスを逃してしまったあの時から、守れないわたしの罪は重くなるばかりだった。

 償う方法は、たった一つ。

 カインディスを、殺すことのみ。

 わたしの故郷も、ガルンの町長と同じことをしている。人を殺せと他人に頼んで、自分たちは被害者面をしているのだ。

 人のことは言えない。本当は責める資格もなかった。

 けど、わたしは依頼として受けている。

 罪、だから……――


「オレは平気だ」


 綺麗な嘘だった。





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