17 変わってしまった港町。3
「魔人……ね。どこでも聞くけど、きっとそれもガセネタだろう?」
「チミ、何を言うかね?!
ここから南へ下った先に山が見えるだろう? その麓の炭焼き小屋に、魔人の親が住みついて居ると専らの噂に、ワタシもほとほと困っていた所。それをあの勇者は退治すると言ったのだ」
――バカで良かった。
胸の内で思いっきりガッツポーズをする。
こんなバカに遭遇できるのは、一生に一度、あるかないかだ。
本当に、清々しいほどのバカで。どうしようもないくらい、畜生だ。
すっかり冷め切ったわたしとは対照的に、
「な、名前! その魔人の親は何て?」
珍しく、彼が身を乗り出さんばかりの勢いで言葉を発している。
「……し、知るか! 大体、何で金色なんかに」
多少圧され、怯えながらも拒絶する。金色なんか――という差別表現を強調して。
町長に対してはすでに冷め切ってはいるが、暴言の数々には聞いていて耳が腐る。
我慢はそろそろ限界だ。
「――その名乗り出た勇者とやらに、アンタは何を頼んだ?!
頼んだ相手がどんな奴でも、人を殺してくれと頼むことに、アンタは人として何も感じないのか?!」
「有害を、恐怖を取り除くことの何が悪い?!」
開き直りやがった。それも質の悪い方に。
外道が治める所は、外道しか集まらないのだろう。この町の活気を殺したのは、魔人の親が住み着いたからじゃない。この男にそれだけの器がないせいだ。
自分では何もしない。他人を頼りにする。決して手を汚さず、高みの見物。
コレが同じ人間のすることかと思うと……本当に、世界は廃れる一方だ。
「…………マヒト、行こう」
「でも、魔人のことを――」
「コイツらに聞いたって、何も話しちゃくれないよ。だったら、自分で確かめればいい」
「……………………分かった」
渋々といった雰囲気で、わたしの後を着いてくる。
魔人の親――その当人が本当のことを言っているなら、マヒトを育てた親と言うことになる。だから確かめたいのだろう。
たとえ名を騙る無関係の人間であっても、奴から守らなければならない。殺させるわけにはいかないのだ。
「――アル、怒っているのか?」
「あの外道な腐れ畜生の町長に、ね」
外道も腐れも、畜生も似たような表現なのに、あえて三つ使って表現する。怒っているのは町長に対してだと、強調する意味を込めて。
「……………………ありがとう」
どう受け取ったかは知らないけど、感謝されるようなことじゃない。