15 変わってしまった港町。1
交流地点の港町、ガルン。
朝から夕方まで市が立ち、夕方以降は屋台が並ぶ活気が満ちあふれる町……の、はずだった。
「何、ここ?」
思わず呟く。
本来なら往来は途切れず、人の威勢が良い商売文句に満ちあふれている。しかし今は、どうか?
幽霊街のように、ひっそりと静まりかえっている。
船の出入港はある。
積み荷を乗せ、あるいは降ろす作業は、金色がやっていた。
――と言うか、やらされている?
重い荷物を抱えた金色が倒れる。よく見ると、服も靴もボロボロで、顔も泥まみれで汚れていた。
「休むな、働け!」
その金色に鞭と怒号が飛んだ。船の持ち主だろう。
三年前見た光景と、激しく違っている。
金色迫害が少ないこの港町で、金色の働き口は積み荷を降ろすなどの重労働だ。それでも、賃金は安くとも仕事があるだけマシだろうし、鞭を振るわれることもない。
割と普通に暮らせているはずなのに、たった三年でここまで劇的に変わってしまうものだろうか?
「大丈夫ですか?」
駆け寄ったマヒトを追いかけ、手を塞ぐ。わたしは首を振り、『魔法は使うな』と小声で言った。
今ここで騒ぎを起こせば、金色への扱いが更に酷くなる。辛いだろうが、我慢しなければならない。
「ああ? 人様ン所の奴隷をどう扱おうが勝手だろう?」
「どっ!?」
それは人を人としてみない、究極の差別用語。
「何故……みんな同じ人なんだぞ!」
「へっ! 金色が一丁前な口聞いてんじゃねーよ! テメーらなんざ人じゃなえぇ!!」
口を利いたマヒトに向かって鞭が振るわれる。
……が、届く寸前でわたしの剣が受け止めた。
抜くまでもない、鞘ごと、で。
「非道な行いをしているアンタこそ、人のすることじゃない。むしろ、外道か畜生って言うか、アンタ、見た目的に悪党っぽいよな」
「な、なんだとっ?! お前、人のクセに金色の味方なのか!」
「……いや。ボクの剣は守るためにある。アンタみたいなバカから、な!」
鞭は絡まっているのが好都合。
勢いを着け、男を投げ飛ばした。
盛大に派手な音を響かせ、積まれた木箱に突っ込む。その積み荷を降ろしているのが誰なのか、よく考えればいい。肉体労働者のありがたみを知れ。
ふん――と胸を張って天罰だと呟く。
「あ、貴方は何てことをするのですか? 金色が職を失っても良いと?!」
「じゃあ、何? アンタはあきらかに過酷な扱いを受けて、奴隷と鞭を振るわれ死んでも良いと言うの?」
「そうだよ! 貴方が剣で守るように、金色の自分はこの身体全てで守るべき人が居ます。養っている人が居ます。その人が今日を、明日を生きていくために、働ける自分が守らないといけないんです!!」
言って、主の元へ走っていく。助けて土下座して、働かせてもらうためだろう。
わたしは彼の言葉が重く感じられた。
誰かを守る――は、傲慢なのだろうか。それとも、単なる自己満足なのか。
助けられる人を放っておくことは嫌だし、悪逆非道は許せない。でも、絶対的な正義の味方じゃない。
「……あの人、泣きそうだった」
と、泣きたいのはアンタの方だろう彼が言った。
「多分、止めてくれたアルの行為が嬉しくて、でも働かなきゃならないから振り切るしかなくて……言葉を刺にしないと、心に嘘がつけなかったんだと思う」
「けど、あのままじゃ死ぬって!」
「うん……。きっと、死んでも守りたいんだと思うな」
死んでも守りたいモノ――
命よりも大切なモノはない。命で命を守っても、残される者にとっては耐えられないことだった。
犠牲の上で生きている……そんな罪悪感を背負わなければならないからだ。
「養っている人は、彼が愛している人、だろうな」
「家族愛ってやつ?」
「それとは違う感情だと思う」
「何ソレ」
好きだとか、愛しているとか。
マヒトも人や世界を愛おしいと言うが、家族に対する感情とは違うモノを、わたしは理解できなかった。
一族が伝えた教養の中もなかったし。
――知らないなら、知らなくても良い感情ってことなのかも。