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13 〝狂人〟と対峙して……。2


「入ったら?」


「あ、うん。けど、着替えているよな?」


「まだだから良いよ」


 遠慮がちに開かれたドアから、包帯やガーゼだらけのマヒトが入ってくる。

 また一段と酷くなったようだが、手当てされている所を見ると、マヒトという〝人〟して、女将さんがやってくれた気がした。


「寝てなくて大丈夫なのか?」


「平気、平気。マヒトのおかげで快調」


 起きあがり、ぐるぐると肩を回しアピール。傷を塞いだ本人なんだ、良くなっているかどうかくらい判断ができると思うのだが……。

 そんなわたしを見ず、マヒトは俯いて、


「…………その……ごめん」


 いきなり謝った。


「〝魔人〟さえ存在しなかったら、あの人は狂わずに済んだはずだ……」


「は?」


 疑問に思うと当時に、確認したい疑問が浮かぶ。


「ちょい待ち。今更聞くのもなんだけど、マヒトって歳いくつ?」


「えーっと……十年、育ててくれた親が居て…………旅に出て十年は過ぎたから……今は多分、きっと二十一?」


 多分ときっとは意味が違うと思う。曖昧だと言うことを強調したかったのだろうか。

 二十一……そう言われれば見えなくもない。しかし、奴より上にも思える。

 ――でも、ちょっと待ってよ。

 ふと、浮かぶ。

 十年は育ててくれた親が居て、旅に出て十年過ぎて二十一……十歳で旅に出た計算になる。その時〝魔人〟と知られ追い出された――と考えれば、十歳での旅は仕方ないと納得してしまう。

 ただ言えるのは、


「あー……それは違う。魔人がどうこう騒がれ始めたのは十年ちょっと前で、カインディスは今年二十三歳。

 ――で、アレが自分を魔人になるとか言い出したのは三歳の頃からだから、マヒトが生まれたから自覚した……とは否定しきれないけど、少なくともアイツは生まれた時から狂っていたよ」


 マヒトの存在どうこうは、別次元だ。

 もしも彼が生まれなくても、アイツはトチ狂ったまま育っていたはず。魔法は使わない人だが、別の意味での〝魔人〟に。

 わたしの言葉にどう思ったのか、沈黙が続く。

 自分のせいで傷ついたと思っているなら、間違いだ。自分の存在を否定しているなら、何の解決にもならない。それはただの現実逃避。命を絶とうとしているのなら、育てた人は何のために育てたというのか?

 ……アイツを殺そうとしていたわたしが言うのはお門違いだけど。


「あの人は…………もう戻れないのか?」


 ぽつりと呟く。

 戻れないから、一族は殺せと命を出した。けど……――


「まあ……一つの喩え話として。

 ある所に、盗賊をやっていた男が居たんだ。で、ある日、目の不自由な女の人を手違いで助けちゃって、女の人に感謝されたんだよ。何だかんだで、身の上話を聞く内、男の中で自分がやっていたことが走馬燈のように浮かんで泣けてきて……泣いたんだ。そいでもって女の人と一緒になりたいって盗賊業から足を洗ったのが男の理由。

 早い話、改心したってことなんだけど。

 この喩えで行くとつまり……奴の心を変える劇的な何かがない限りは、真人間には戻れないってことだね」


 同時に、決してあり得ないこと。

 人の心は一朝一夕じゃ変わらないし、こんな物語のような話みたいに上手くいくとも限らない。

 カインディスへの選択は、一つしかない。

 たった一つしか、選択を出せなかった。

 排除する。

 救えないから、そうするしかない。

 ――できないで居る状態だから、事態がどんどん悪化してしまっているんだけど。


「アル、見つけよう!」


「……は? 人の話聞いてた?」


「聞いていたから、そう思った。アルは可能性が全くないって言ってないから、つまりは変えられる可能性があるってことだ。傷つけ合うより、言葉を交わした方が良いと思うんだ。アルが傷つくこともなくなるし」


 などと簡単に言うが、わたしはポツリと呟く。


「アイツを改心させるねぇ~……天地がひっくり返っても、無理だと思うけど」


 と言うか、神様でも現れない限り無理だって。

 絶対に、ね。





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