00 プロローグ
木陰の下に人が座っている。
全身、血と傷と痣だらけ。
ケンカ、とは違う。どちらかと言えば恨まれてのモノ。
剣の道を進んでいるからか、人の気配などがよく分かった。
この人の傷からは、強い恐怖と怒り、蔑んだモノがまとわりついている。
なのに……当人からは哀しいだとか、悔しいだとかの負の気配が全くしない。
無、だった。
「あ……」
ふと、目が合う。
まだ生きていた。
「こんにちは」
「………………コンニチハ」
何をどうすれば、そんな言葉が出るのか。
そして、どうして返したのか。
頭から血を流しながらも、その人はにっこりと笑う。痛覚がない――と言うより、受け入れているように見える。
――当たり前?
この人にとって、当たり前だから?
「オレなら放って置いてもいい。いつものことだし、いつものことだから」
それはどんな『いつも』なのか。
放って置けと言われて、はいそうですかなんて言えるほど、冷たい人間じゃない。
荷物から包帯と傷薬を取り出し、手当を開始する。
すると、驚いた表情を向けられた。
何故――と言っている。
「あいにく、ボロボロで行き倒れている奴を放って置けるほど人間冷たくないんで。あ、だからと言ってお人好しとか呼ばれてないよ。そうしたいからするだけ。
ほら、頭出して。出血しすぎてバカになってもいいって言うの?」
「………………うん」
戸惑いがちに頭の傷口を向ける。
それは陽の光に反射する、綺麗な金色の下。
ケガの原因がようやく分かった。
世界は金色を人の色と見ていない。金色の髪など、異質な存在とされていた。
金は、魔人の色。
魔人は、世界を育む生命力――マナと呼ばれる源――を消費して魔法を使う存在。世界を傷つける者として忌み嫌われている。
伝承によると、魔法は誰でも使えるモノとされている。それなのに誰も使わないのは、世界を傷つけるからと、世界への冒涜で、反逆行為だからだと、口を揃えて言っている。
魔人が金色を持っているため、世界では『金色迫害』が起こっていた。特にわたしの居る大陸が酷かった。
どこに行っても差別され、傷つけられる。
この人も、無意味に迫害されたのだろう。
「だからって、受け入れるなよ。だからって、無闇に傷つけるなよ」
同じ世界に生きる人同士、傷つけ合う現実。
思わず口にしてしまった本音に、
「――仕方ないさ。だってオレは〝魔人〟だから」
哀しそうな笑みで、そう答えた。