現代の組長・若頭なのに反社会的活動とは無縁の爽やか青年です♡
恋愛小説という世界には、ときどき大変不思議な男性が現れる。
年齢は二十八歳。身長一八五センチ。黒髪。切れ長の目。高級車を乗り回し、都心の高層マンションに住んでいる。
そして職業は、暴力団の若頭である。
だが安心してほしい。
彼はきっと悪いことをしない。
むしろ困っている老人を助け、捨て猫を拾い、ヒロインにはケーキを買って帰ってくる。
部下からは恐れられているが、女性には手を上げない。
子供にも優しい。
おそらく町内会にいたら、資源ゴミの日もきっちり守るタイプである。
……待ってほしい。
では、この男はいったい何をして若頭になったのだろうか。
暴力団というものは、町内会の清掃活動を十年間頑張ったからといって、若頭にはしてくれない。
『君は毎週、公園の落ち葉を掃いてくれたね。今日から若頭だ』
そんな爽やかな人事制度があるなら、全国の自治会長が若頭候補である。
現実には、若頭とは組織のナンバー二、あるいはそれに準ずる重要幹部だ。
組長の代理として組織を動かし、下部組織をまとめ、部下から上納金を集め、上部組織との関係を調整する。
そして暴力団である以上、その上納金がどこから来ているのかという、非常に面倒な問題が発生する。
ところが恋愛小説になると、なぜかその部分だけ霞がかかる。
『俺の仕事には首を突っ込むな』
ヒロインは言われる。
なるほど。
作者も首を突っ込まない。
読者も首を突っ込まない。
警察だけが首を突っ込みたい(笑)
そして若頭は今日も高級車でヒロインを迎えに来る。
『乗れ』
格好いい。
だが、その車の代金はどこから出た。
非常に聞きにくい (ノ∀`)
さらに組長となると、もっと難しい。
大きな暴力団なら、その組長自身も上部団体に所属している場合がある。つまり下から上納金を受け取る一方、自分も上へ金を納めている。
会社に例えれば、支店長でありながら本社への売上をまとめているようなものだ。
ただし普通の会社と違って、事業内容を詳しく聞くと空気が一気にどんより悪くなる。
それなのに、
『俺は悪いことは嫌いなんだ』
と若頭が言い出す。
いや、転職しよう。
ハローワークへ行こう(笑)
これほどまでに職業と思想が一致していない人物も珍しい。
もちろん、ヤクザを小説に登場させること自体が悪いわけではない。
犯罪者を主人公にした名作はいくらでもあるし、悪人に魅力があってはいけないという決まりもない。
問題は、令和の現代社会を舞台にしているのに、「反社」である暴力団の組織的幹部という肩書だけを『危険で格好いい男』というアクセサリーとして使い、「反社」である暴力団であることの現実だけを綺麗に消してしまうことである。
これではヤクザというより、ファンタジー職業だ。
剣士。
魔法使い。
聖騎士。
若頭。
たぶん次のレベルで『極道王』に転職できる (ノ∀`)
むしろ異世界なら問題ない。
『王都最大の暗黒ギルド、その若頭』
これなら私は何の疑問も抱かない。
魔王軍幹部がヒロインに優しくてもいいし、盗賊団長が実は猫好きでもいい。
ところが舞台が「令和」となると話が違う。
多くの善良な人々が犠牲になったために「暴力団排除条例」があり、銀行口座ひとつ作るのにも苦労する世界である。
その若頭がタワーマンションでシャンパンを開けながら、
『お前だけは俺が守る』
と言われても、
『そのマンションの賃貸審査、どうやって通ったんですか?』
という疑問が先に来る。
恋愛どころではない。
だから現代ヤクザを恋愛小説のヒーローにするなら、いっそ堂々と悪人として描いた方がまだ筋が通るのではないか。
『俺は善人じゃない』
そう言う男にヒロインが惹かれてしまう。
極めて危険な恋だと分かっている。
善良な人を多く貶めた非道な犯罪者だとも分かっている。
それでも好きになってしまった。
こちらの方が、よほど物語になる。
逆に、
『若頭ですが犯罪には関係ありません。部下には慕われています。お金持ちです。ヒロインには一途です♡』
まで行ってしまうと、もうヤクザである必要がない。
普通に大企業の副社長でいい。
副社長なら高級車にも乗れる。
タワーマンションにも住める。
ヒロインにケーキを買って帰っても、警察は絶対に来ない。
令和の恋愛小説に必要なのは、間違いなく『爽やかな若頭』ではない。
必要なのは、その男が本当に若頭なら、
『こいつ、どう考えても爽やかでは済まない人生を送ってきただろ』
という、最低限の説得力なのだと思う。
でなければ彼は若頭ではない。
黒いスーツを着た、ただのイケメンである。
もちろん、創作の自由は大切です。
ですがその一方で、現実の反社会的勢力によって傷ついた被害者や、その遺族の方々がいることも忘れてはいけないと思います。
現実の犯罪を美化しないことは、十分に配慮すべきことです。
被害に遭われた方々に少しでも寄り添い、これから反社会的勢力による被害が一件でも減っていくことを願って、この話を締めたいと思います。




