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ワインの一滴

作者: せいちゃん
掲載日:2026/08/05

夜の暗闇に人間の繁栄が彩りを加える。地平線の果てまで灯りは続いていた。私の遥か足元に、今も命を燃やし焔を灯す人々がいる。それを眺め、優越感に耽りながらクリスタルグラスを回し、その立ち上がる香りを楽しむ。テラスに強く吹く風が木のテーブルの蝋燭の炎を揺らす。地上に劣らずあたりを僅かに照らしている。グラスを傾ける。ふむ...もうなくなってしまった。肘掛けに手のひらを立て、ソファから立ち上がると、窓を開き部屋へ入っていく。グラスの底には、意図せず残した一滴の赤が月明かりを受けて輝いていた。この部屋は一人で使うには少し持て余す。差し込む月明かりを頼りに、カウンターの裏の冷蔵庫を開く。冷やしておいたガラスのカラフェを取り出し、テラスへと歩いていく。クリスタルグラスへ静かに水を注ぐ。グラスの底に残った一滴のワインがほどけた。淡く紅に染まった水面に、灯りが宿る。その光は夜景にも星空にも見えた。人は地上に星空を作り、私はその星々を一つのグラスに閉じ込めていた。

ワイングラス。普通ならそれで終わりだ。だがどうだろうか。なぜ先は窄まっているのか?なぜグラスはこうも薄いのか?必滅者にとって、全てを問うには人生はあまりにも短い。だから人は、時間を伸ばそうとする。書物を書き、人を育て、文明を築き、そして金を積む。金は時間を産まない。しかし、他人が費やすはずだった時間を買える。そうすれば、花火のように短い時間も、その軌跡を十分に残せるのだ。

透明な、こうも薄いワイングラス。そんな薄いグラスでも、子供と大人を強く隔てる壁となる。水というものは不思議だ。器に従い、形を変え、色さえ受け入れる。だからだろうか。昔から受容や純粋の象徴として扱われてきたらしい。何かになってしまったワインから見れば、まだ何者でもない水は眩しく映る。時の流れの中で失ってきた物を、まだ持っているのだから。だが、形を持たないことは強さではない。器を失えば、水はただ流れ去る。何者にでもなれるということは、まだ何者でもないということでもある。

グラスを傾け、星々を一口に飲む。庶民は私をみて嫉妬する。でも彼らもまた、透明なグラスと、蛇口を捻れば尽きることなく流れる水を持っている。当たり前は、持っている人ほど見えなくなる。...だが、人は上を見なければ進めない生き物でもある。なら、一番上。上がない人は、何を見る?下?横?それとも届き得ない空?私は、下を見ている。自分は他者よりも、誰よりも恵まれている。そんな自信と、自分が当たり前に享受していることへの感謝を思い出すことができる。

空になったグラスに再びロマネ・コンティを注ぎ、グラスを持ってテラスの端まで歩く。誰もが、隣を歩く人を持っているように見えた。歩幅を合わせ、二人で一つの時間を共有していた。今日はクリスマスイヴか。他人に時間を使うなんて。何と非生産的なんだろうか。その時間でどれほどの問いを答えられる?どれほどの金を積める。この関係はいつまでも理解できる気がしない。...ペンは思想を残せる。では、一緒に見た景色はどこに残るのだろうか?そう思いながら、ワインの水面を眺めていると、そこに波紋が立つ。手にもう一滴。雨か。ワインの味が変わってしまう。一滴、また一滴と波紋を揺らす。街で見た二人の姿が、不意に浮かんだ。理由は考えなかった。ただ、ガーネットの水面が淡くなるのを見つめるだけだ。灯りは消え、地平線は明るくなり始めていた。

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