大幹部幼女メアリー②
研修は数日後から始まったわ。トーマス商会の中庭で行った。
同期は4人ほどいたわ。皆、壮年から老人だわ。
「俺は串焼きで大もうけしにきたのだ」
「フン、俺は他の商会から鞍替えだぜ」
「串焼き焼いて25年!ワシならトップ串焼き屋になれる!」
「僕のコスパの良い串焼きをトーマス商会で採用してもらうのだ」
「奥さんは串焼き歴何年?」
「はい、半年で」
「「「プゥ~クスクスクスクス~~」」」
「甘いよ。甘い」
話を聞いたらトーマス商会の急成長を続けている。串焼きの歴戦の勇者が集まったようだわ。
「注目なの~、メアリーなの~」
メアリー様がいた。聞けば男爵令嬢だそうだわ。
「まず。屋台さんに礼!なの~」
訓練用の屋台に礼をするように言われた。
「はん・・・今更、焼かせろよ」
「そうだ。腕を見てくれ!」
「いらないの~、基本からなの~」
修行方法も変わっていたわ。
「串焼きひっくり返しなの~!」
粘土が刺さった串を反転させる訓練を行った。
重さ50グラムぐらいでだそうだ。
「次は指を鍛えるの~」
砂が詰まった壺をつく。
「最初はゆっくりで良いの~手本を見せるの~」
「はっ!はっ!はっ!」
すごい勢いで両手で交互に砂を突く。人差し指と中指を鍛えるのね。
「何だ。幼女でも出来るのか。簡単だぜ!・・・い、いて!」
一人が突き指したわ。
「だから始めはゆっくりで良いと言ったの~、メアリーが治療するの~」
「だ、大丈夫だ。怪我なんて日常茶飯事だ!」
「違うの~、お前のためじゃないの~、血が具材に入ったらお客様に迷惑がかかるの~、メアリービームなの~」
ピカッ!
えっ、治癒魔法・・・
「次はキャベツのみじん切りなの~」
ササササと熟練の料理人のように包丁を使う。
「何でえ、串焼きにそんな高度な包丁なんていらないだろう」
「いるの~、このキャベツは賄いで食べるの~、次はこちらから話しかけるまで質問禁止なの~」
まるで暴君のようだ。
賄いを食べて、夕方、リヤカーを引いて街中を走る。
皆の不満はたまっていく。
「何だよ!あのトーマス商会と思ったけど全然高度じゃないじゃないか?」
「秘伝のレシピを教えろよ!」
「そうだ。金貨5枚払ったんだ!」
実地訓練も始まった。串焼きストリートだわ。
鬼のサムソン親方だそうだわ。
「おう、串焼きをひっくり返せ!素早くだ!」
ここで何故指を鍛えたか分かったわ。
「あ、あち。熱い!」
「こら、そこのおっさん。熱い言うのは禁止!まるで素人じゃねえか。客は素人が作ったものと思うに違いない。つまり、不味いと思うわけだ!」
私は我慢して、熱いが熱いと言わないようにした。
「うぅ」
「ナタリー!」
ヒィ、注意されたわ。遅いのかしら・・・・
「次から指輪外しな。邪魔になるぜ」
「も、申訳ございません」
旦那から送られた結婚指輪だわ・・・・
「次は客の呼び込みなの~、リリーさん。よろしくなの~」
「はい、リリーです。ナタリーさんは私が教えますわ。ポーズはこうですわ」
右手で大声を出すときのマイクのように口に添えて、左手でスカートの裾を掴み少しあげて左足を少しあげる。体重が前にかかる。
「フフフフ、いらっしゃいませ~、いらっしゃいませ~、あら、猫ちゃんは違うわ」
「ニャー、ニャン」(呼んだ?)
す、すごい。猫がやってきたわ。
穏やかな声だけど通る。
私に出来るかしら。リリーさんは呼び込み女王として君臨しているそうだわ。
しかし、五人の中で私が一番下手だわ。
「ナタリーさん。素早く」
「はい・・うぅ」
砂も一番遅くしかつけない。
次第に皆は不満を口にする。
「あのさ、俺、ヤンさんの高級串焼き路線に行きたいのよ!」
「ワシは串焼き歴25年、西区の長老じゃ!」
「俺は、もっと効率的に儲ける方法を知りたいのね」
「そうだ。こんなの知っている。さっさと屋台をやらせよ」
「そうだ。もしかして、ナタリーさんに合わせているから教育が遅いのじゃないか?」
皆の視線が私に向いてきたわ・・・・やめようかしら。家に戻る。
「ただいま・・・どうしたのダミアン!」
「母さん。相談がある。実は・・・・」
息子が深刻な顔をしている。平民学校をやめて見習いに出たい。
「お母さんの深刻な顔を見たら・・・僕、いたたまれないよ。12歳だよ。見習いにいける歳だよ!」
「はっ!」
そうだ。まだ、子供だと思っていたダミアン、男の顔になっていたわ。
「母さん・・・」
「ダミアン、坊やだと思っていたのに・・・ごめんなさい。母さんにもう少し頑張らせて」
覚悟を決めた。
「はっ!はっ!はっ!」
砂を指で突くコツが分かってきた。
「次は熱砂を入れるの~、素早く引かないと火傷するの~」
「はい!」
実地訓練でも、呼び込みはダミアンの顔を思い浮かべる。
「いらっしゃいませ!美味しいですわ。サムソン親方の一品ですわ!頑固で無粋だけど、それだけ串焼きにかけていますわー!」
「クスッ、何だ。その口上は・・・」
「奥さんに免じて買ってみよう。親方の奥さんかな」
「ち、違う!」
あら、サムソン親方が顔を真っ赤にしている。そうだ。男は1人じゃないことに気がついた。
座学も頑張るわ。単純な計算を続ける。
順位は・・・・
「ナタリーしゃんが、速さ三位なの~、でも正答率が100パーセントなの~」
「な、何だよ。客は細かい計算違いなんて気にしないよ」
そのうち、損益分岐点や帳簿の付け方、引き際の見極め方もならう。テストで100点を取った。
「キャア、一位だわ・・・」
と思って周りを見渡したら、私一人だったわ。
「メアリー様、皆様は・・・」
「やめたの~」
「まあ、金貨5枚もかけたのに・・」
「返したの~~」
何でも、金貨5枚取ったのは本気度を見るため。
本当は無料でも良かった・・・・
不満を言うので、金は返すと言ったらすぐにやめた。
「そうなの~、ナタリーしゃんにはトーマス商会見習いとしてお給金を払うの~」
「ええ、良いのですか?」
「契約書に書いてあるの~、よく読むの~」
銀貨12枚を頂いたわ。
その後、卒業試験を受けたわ。
「はっ!はっ!はっ!」
串焼きを素早くひっくり返す。これは製品毎の焼きムラをなくすため。
「如何ですか?」
主要屋台メンバーの方々にごちそうする。
「・・・上出来だぜ」
「サムソン親方、技盗まれちゃったね」
「う、うるせええ、グスン、まあ、よくやった」
「皆様、有難うございます!」
私はトーマス商会が作ったリヤカーで営業を始めた。
串焼きはヤキトリだわ。
単価が安い・・・これで、儲けが出るのかしら・・・
「大丈夫なの~、これは沢山食べたくなる代物なの~」
甘辛いソースをつけて焼く。メアリー様が東方諸国のレシピを参考にして作ったそうだわ。これは真似出来ないわね。
トーマス商会内のシマを移動しながら販売する。場所代は貴族学園前の10分の2くらい。
何よりも沢山売れたわ。
「ネギマ五本!」
「はい、ネギ沢山ネギマ、毎度!」
「モモ10本」
「はい、今日はモモ肉多量入荷の日。毎度!」
しかし、王都公園でヤキトリを売っていたら、元旦那に出会った。
「皮・・・一本下さい・・・えっ、ナタリー!」
すっかりやつれて、商会員時代の面影は見るカゲもない。
ロビンは土下座をして謝罪をした。
「な、何だ、今評判のヤキトリってお前だったのかよ。俺が焼くぜ。やり直そうぜ!」
だから、言って差し上げたわ。
「ロビンさん。これは私の仕事ですわ。私だけの空間とお客様です。横取りは許しませんわ。だって、私はヤキトリ屋台の女主人なのですから!」
「な、何だと!」
手をあげられたわ。思わず目をつむると、時間が経っても痛みは感じない。
「やめねえか。すっとこどっこい」
サムソン親方だわ。旦那の振り上げた手を掴んでいるわ。
「おう、トーマス商会の若い衆に預けるからこっちこいや」
「ヒィ、誰だよ」
「サムソンさん。どうして・・・」
「フン、心配だから見に来たぜ・・・弟子だしな」
「はい、有難うございます」
ロビンとはどうなるかは分からないが、でも、ヤキトリの屋台だけは譲れないわ。
仕事に慣れてきたとき、メアリー様に呼ばれたわ。
「ナタリーしゃん。金貨60枚取り戻したの~」
「えっ」
保証金の預かり証とキッチン荷車の買取りの契約書はメアリー様に預けたのだったわ。
嬉しいけど、ここは裏組織だわ。
「有難うございます。では、あの手数料はお引き下さい」
「いらないの~、ナタリーしゃんはトーマス商会のヤキトリ部門の主力なの~。身内から取らないの~、息子さんを学校にいかせてあげるの~」
「メ、メアリー様!」
私は一生付いていくと決めたわ。涙が止らない。




