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実の子が見つかったからと邪険にされたので、屋敷を出た養女の話  作者: 山田 勝


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9/15

大幹部幼女メアリー②

 研修は数日後から始まったわ。トーマス商会の中庭で行った。


 同期は4人ほどいたわ。皆、壮年から老人だわ。


「俺は串焼きで大もうけしにきたのだ」

「フン、俺は他の商会から鞍替えだぜ」

「串焼き焼いて25年!ワシならトップ串焼き屋になれる!」

「僕のコスパの良い串焼きをトーマス商会で採用してもらうのだ」


「奥さんは串焼き歴何年?」

「はい、半年で」

「「「プゥ~クスクスクスクス~~」」」

「甘いよ。甘い」


 話を聞いたらトーマス商会の急成長を続けている。串焼きの歴戦の勇者が集まったようだわ。


「注目なの~、メアリーなの~」


 メアリー様がいた。聞けば男爵令嬢だそうだわ。


「まず。屋台さんに礼!なの~」


 訓練用の屋台に礼をするように言われた。

「はん・・・今更、焼かせろよ」

「そうだ。腕を見てくれ!」


「いらないの~、基本からなの~」


 修行方法も変わっていたわ。


「串焼きひっくり返しなの~!」


 粘土が刺さった串を反転させる訓練を行った。

 重さ50グラムぐらいでだそうだ。



「次は指を鍛えるの~」


 砂が詰まった壺をつく。


「最初はゆっくりで良いの~手本を見せるの~」


「はっ!はっ!はっ!」


 すごい勢いで両手で交互に砂を突く。人差し指と中指を鍛えるのね。


「何だ。幼女でも出来るのか。簡単だぜ!・・・い、いて!」


 一人が突き指したわ。


「だから始めはゆっくりで良いと言ったの~、メアリーが治療するの~」

「だ、大丈夫だ。怪我なんて日常茶飯事だ!」

「違うの~、お前のためじゃないの~、血が具材に入ったらお客様に迷惑がかかるの~、メアリービームなの~」


 ピカッ!


 えっ、治癒魔法・・・



「次はキャベツのみじん切りなの~」


 ササササと熟練の料理人のように包丁を使う。



「何でえ、串焼きにそんな高度な包丁なんていらないだろう」

「いるの~、このキャベツは賄いで食べるの~、次はこちらから話しかけるまで質問禁止なの~」



 まるで暴君のようだ。

 賄いを食べて、夕方、リヤカーを引いて街中を走る。


 皆の不満はたまっていく。


「何だよ!あのトーマス商会と思ったけど全然高度じゃないじゃないか?」

「秘伝のレシピを教えろよ!」

「そうだ。金貨5枚払ったんだ!」


 実地訓練も始まった。串焼きストリートだわ。

 鬼のサムソン親方だそうだわ。


「おう、串焼きをひっくり返せ!素早くだ!」


 ここで何故指を鍛えたか分かったわ。


「あ、あち。熱い!」

「こら、そこのおっさん。熱い言うのは禁止!まるで素人じゃねえか。客は素人が作ったものと思うに違いない。つまり、不味いと思うわけだ!」


 私は我慢して、熱いが熱いと言わないようにした。


「うぅ」

「ナタリー!」


 ヒィ、注意されたわ。遅いのかしら・・・・


「次から指輪外しな。邪魔になるぜ」

「も、申訳ございません」


 旦那から送られた結婚指輪だわ・・・・



「次は客の呼び込みなの~、リリーさん。よろしくなの~」


「はい、リリーです。ナタリーさんは私が教えますわ。ポーズはこうですわ」


 右手で大声を出すときのマイクのように口に添えて、左手でスカートの裾を掴み少しあげて左足を少しあげる。体重が前にかかる。


「フフフフ、いらっしゃいませ~、いらっしゃいませ~、あら、猫ちゃんは違うわ」

「ニャー、ニャン」(呼んだ?)


 す、すごい。猫がやってきたわ。

 穏やかな声だけど通る。


 私に出来るかしら。リリーさんは呼び込み女王として君臨しているそうだわ。


 しかし、五人の中で私が一番下手だわ。


「ナタリーさん。素早く」

「はい・・うぅ」


 砂も一番遅くしかつけない。



 次第に皆は不満を口にする。


「あのさ、俺、ヤンさんの高級串焼き路線に行きたいのよ!」

「ワシは串焼き歴25年、西区の長老じゃ!」

「俺は、もっと効率的に儲ける方法を知りたいのね」

「そうだ。こんなの知っている。さっさと屋台をやらせよ」


「そうだ。もしかして、ナタリーさんに合わせているから教育が遅いのじゃないか?」


 皆の視線が私に向いてきたわ・・・・やめようかしら。家に戻る。



「ただいま・・・どうしたのダミアン!」

「母さん。相談がある。実は・・・・」


 息子が深刻な顔をしている。平民学校をやめて見習いに出たい。


「お母さんの深刻な顔を見たら・・・僕、いたたまれないよ。12歳だよ。見習いにいける歳だよ!」


「はっ!」


 そうだ。まだ、子供だと思っていたダミアン、男の顔になっていたわ。


「母さん・・・」

「ダミアン、坊やだと思っていたのに・・・ごめんなさい。母さんにもう少し頑張らせて」



 覚悟を決めた。


「はっ!はっ!はっ!」

 砂を指で突くコツが分かってきた。


「次は熱砂を入れるの~、素早く引かないと火傷するの~」

「はい!」



 実地訓練でも、呼び込みはダミアンの顔を思い浮かべる。


「いらっしゃいませ!美味しいですわ。サムソン親方の一品ですわ!頑固で無粋だけど、それだけ串焼きにかけていますわー!」


「クスッ、何だ。その口上は・・・」

「奥さんに免じて買ってみよう。親方の奥さんかな」

「ち、違う!」


 あら、サムソン親方が顔を真っ赤にしている。そうだ。男は1人じゃないことに気がついた。


 座学も頑張るわ。単純な計算を続ける。

 順位は・・・・


「ナタリーしゃんが、速さ三位なの~、でも正答率が100パーセントなの~」

「な、何だよ。客は細かい計算違いなんて気にしないよ」



 そのうち、損益分岐点や帳簿の付け方、引き際の見極め方もならう。テストで100点を取った。


「キャア、一位だわ・・・」


 と思って周りを見渡したら、私一人だったわ。


「メアリー様、皆様は・・・」

「やめたの~」

「まあ、金貨5枚もかけたのに・・」

「返したの~~」


 何でも、金貨5枚取ったのは本気度を見るため。

 本当は無料でも良かった・・・・

 不満を言うので、金は返すと言ったらすぐにやめた。



「そうなの~、ナタリーしゃんにはトーマス商会見習いとしてお給金を払うの~」


「ええ、良いのですか?」

「契約書に書いてあるの~、よく読むの~」


 銀貨12枚を頂いたわ。


 その後、卒業試験を受けたわ。


「はっ!はっ!はっ!」


 串焼きを素早くひっくり返す。これは製品毎の焼きムラをなくすため。


「如何ですか?」


 主要屋台メンバーの方々にごちそうする。


「・・・上出来だぜ」

「サムソン親方、技盗まれちゃったね」

「う、うるせええ、グスン、まあ、よくやった」


「皆様、有難うございます!」



 私はトーマス商会が作ったリヤカーで営業を始めた。

 串焼きはヤキトリだわ。


 単価が安い・・・これで、儲けが出るのかしら・・・


「大丈夫なの~、これは沢山食べたくなる代物なの~」


 甘辛いソースをつけて焼く。メアリー様が東方諸国のレシピを参考にして作ったそうだわ。これは真似出来ないわね。



 トーマス商会内のシマを移動しながら販売する。場所代は貴族学園前の10分の2くらい。

 何よりも沢山売れたわ。


「ネギマ五本!」

「はい、ネギ沢山ネギマ、毎度!」


「モモ10本」

「はい、今日はモモ肉多量入荷の日。毎度!」



 しかし、王都公園でヤキトリを売っていたら、元旦那に出会った。


「皮・・・一本下さい・・・えっ、ナタリー!」


 すっかりやつれて、商会員時代の面影は見るカゲもない。


 ロビンは土下座をして謝罪をした。


「な、何だ、今評判のヤキトリってお前だったのかよ。俺が焼くぜ。やり直そうぜ!」



 だから、言って差し上げたわ。


「ロビンさん。これは私の仕事ですわ。私だけの空間とお客様です。横取りは許しませんわ。だって、私はヤキトリ屋台の女主人なのですから!」


「な、何だと!」


 手をあげられたわ。思わず目をつむると、時間が経っても痛みは感じない。


「やめねえか。すっとこどっこい」


 サムソン親方だわ。旦那の振り上げた手を掴んでいるわ。


「おう、トーマス商会の若い衆に預けるからこっちこいや」

「ヒィ、誰だよ」

「サムソンさん。どうして・・・」

「フン、心配だから見に来たぜ・・・弟子だしな」


「はい、有難うございます」


 ロビンとはどうなるかは分からないが、でも、ヤキトリの屋台だけは譲れないわ。


 仕事に慣れてきたとき、メアリー様に呼ばれたわ。


「ナタリーしゃん。金貨60枚取り戻したの~」

「えっ」


 保証金の預かり証とキッチン荷車の買取りの契約書はメアリー様に預けたのだったわ。

 嬉しいけど、ここは裏組織だわ。


「有難うございます。では、あの手数料はお引き下さい」

「いらないの~、ナタリーしゃんはトーマス商会のヤキトリ部門の主力なの~。身内から取らないの~、息子さんを学校にいかせてあげるの~」


「メ、メアリー様!」


 私は一生付いていくと決めたわ。涙が止らない。





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