連絡ミスのメアリー
「ふわ~なの~」
「まあ、メアリー様、欠伸されて、夜更かしされたのですか?」
「マリー、メアリーね。お星様とお話したの~」
「まあ、可愛らしい。帰ってお昼寝しますか?」
「大丈夫なの~」
昨晩、お義母様の治療をしに元の屋敷に忍び込んだから眠たいぜ。
シマ内に鍼灸院があったから学ばせてもらった。
アルプスで見つかった5000年前のミイラ、『アイスマン』に鍼治療の跡があったそうだ。
この世界は鍼治療が残った西洋なのだろう。
私の1日は、午前中はお勉強と簡単な運動をして、午後から散策だ。
見回りを兼ねている。
串焼きストリートに向かう。
すると、いざこざが起きていた。あの屋台はサムソン親方の串焼きだ。頑固親父だ。
「あのご主人、僕が頼んだのはニンニクの串焼きです。肉ではありません。取り替えを希望します」
「はあ?俺は確かに肉と聞いたぜ!子供は肉を食っていればいいんだよ!」
客は金髪碧眼の少年、貴族のお忍びか?
後ろにメイド、護衛騎士らしき人がいる。
「坊ちゃまがニンニクをご所望だ。黙って作り直せばいいのだ」
「ええ、そうよ。平民なのだから作り直しなさいませ」
「何を!」
ヤバい。私は介入する事にした。
「待つの~」
「メアリー様?!」
カクカクシカジカと話を聞いた。
良くある連絡ミスだ。
「サムソンしゃんがいけないの~、商売に連絡ミスはつきものなの~、その時にどうするか腹案を考えるのが商売人なの~」
「そんな・・」
「美味しいだけではやっていけないのがドラゴンの目を抜く世の中なの~」
フォローを入れなければいけない。
「でも、ここで八年も営業している生え抜きなの~、味は良い証拠なの~、接客は頑固でも良いけど、連絡ミスは起きるものとしておくの~」
「分かりました。作り直すぜ!」
詳細は分からないが、通常客が自分の食べたい物を間違えるはずはない。単純な聞き違いだろう。
連絡ミス、軍隊でも起きると聞いた。これは商売なら黙って作り直すべきだ。
すると少年が口を出した。
「待って下さい。肉の串焼きをお嬢様にプレゼントします。ご主人、改めて・・・はあ・・・」
息を貯めたな。
【ニ、ニンニクの串焼きを下さい!】
「おう、坊主、はっきり聞こえたぜ!毎度!」
フウ、何とか納まったか。
私は広場で少年と串焼きを食べた。ニンニクって渋いな。
「病気に良いと聞いたので、今、評判の串焼きストリートに来ました」
なるほど、ニンニクか。良い意味で串焼きストリートは有名になっているのか。
「僕はカール・・・と言います。ご令嬢の名を頂きたい」
「メアリーなの~」
「どこの家門ですか?」
「乙女の秘密なの~」
もう、ゼークト家の名を出せない。
「な、なるほど、軽くはないのですね」
「ハニャ」
メアリーは軽い。平均的な7歳の体重だ。35キロくらいか?
「また、会えますか?」
「多分なの~」
「差し支えなければ・・・ウグ、グハ」
え、串焼きを吐き出した。何?自分の串焼きを改めて見る。普通だ。食中毒ではない。
「「坊ちゃま!」」
「早く馬車を!」
しかし、危険だ。食道に詰まらせたのだろう。まだ異物はある。
「触るな!なの~!」
一喝して、カール君の後方に回り。肩甲骨を叩く。
バン!バン!
幼女なので力が足りないな。
「騎士しゃまがやるの~」
「しかし、主人に手をあげるなんて・・」
仕方ない。カール君を石畳に座らせて、後方から抱えて、ドスンドスンと持ち上げて下ろした。
これは前世で習った。
ポト!
串焼きを吐き出した。念のために口に指を入れて開けて、中を見た。喉ちんこが見える。大丈夫そうだ。
「なんて、無礼な!」
「メアリーは無礼なの~」
「馬車が来ました!」
カール君は意識がある。
「はあ、はあ、お嬢様・・」
これで良い。
馬車に乗せられカール君は回復術士の元に向かうそうだ。
心配だな。一緒に乗っていこうとしたら拒否された。
「幼女は乗るな!」
と言われればスゴスゴと引き下がるしかない。
おそらく過保護で食事も切り分けられた物を食していたのではないか?
その後、商会に使いの者が来た。
「フム、お前が助けようとした貴公子はご無事である。一応、役には立たなかったが助けに入ったから礼を授ける!」
チャリンと金貨を投げやがった。床に落ちる。さすがに仏のメアリーちゃんでも拾うことはやぶさかである。家門を名乗らない。よほどの高位貴族か?
「いらないの~!」
「な、何だと!」
「カール君が無事ならそれで良いの~」
するとトーマスさんが口を出す。
「御使者殿、メアリー様はダン男爵家のご令嬢ですヨ。領主の養女ですネ」
「な、何だと!こちらの調査では偽令嬢だと分かっている。嘘を言うな」
「今日、手続き終わったネ!謄本あるネ、貴族院で調べるネ」
「分かった・・・失礼した」
「金貨拾うネ!」
な、何だ。いつもまにメアリーは男爵令嬢になったか?
「当方の不注意であった。受け取られよ」
「いらないの~」
「そう、仰らずに・・」
これも連絡ミスか?結局持って帰ってもらった。
後で聞いたら、トーマスさんが借金の質にメアリーを養子にねじ込んだそうだ。
「ゼークト家ではメアリーは養子ではなかったネ・・・だから簡単だったネ」
「そうなの~・・・」
少し、寂しい。可愛がってもらったことは確かだった。しかし、実際は家族ではなかったか?
「私もこうならなければこの事実は知らせなかったネ」
故郷は遠くで想うもの。今日はマリーさんに子守歌3番まで歌ってもらおう。




